スタチンは本当に筋肉痛や筋力低下の原因となるか?

スタチンに筋肉に対する副作用があることはよく知られています。
今回はスタチン内服中の患者に生じる筋肉痛や筋力低下が、どの程度スタチンに起因するものなのかを検討した研究を取り上げます。

Effect of statin therapy on muscle symptoms: an individual participant data meta-analysis of large-scale, randomised, double-blind trials. Cholesterol Treatment Trialists’ Collaboration.Lancet. 2022 Sep 10;400(10355):832-845. doi: 10.1016/S0140-6736(22)01545-8. Epub 2022 Aug 29.PMID: 36049498

論文の概要

[背景]

  • スタチンは動脈硬化性心血管疾患の予防に効果がある
  • スタチンには筋肉痛や筋力低下を引き起こすかもしれないという懸念が 根強くある
  • 長期の大規模二重盲検ランダム化試験の有害事象の記録から、個人データのメタ解析を行い、スタチンと筋症状の関係を明らかにする

[方法]

  • スタチンとプラセボ、またはスタチン低用量と高用量を比較した二重盲検ランダム化試験で、1000人以上の参加者を2年以上追跡した試験を適格とした
  • 19のプラセボ対照試験(n=123940)と、4つのスタチン低用量vs高用量比較試験(n=30724)の個人データを解析した
  • 事前に規定されたプロトコルに基づき、逆分散加重によるメタ解析が行われた

[結果]

  • 19のプラセボ対照試験で、対象者の特性は以下の通りだった
  • 平均年齢63歳[SD 8]、女性34533例[27.9%]、血管疾患既往あり59610例[48.1%]、糖尿病あり22925例[18.5%]
  • 加重平均追跡期間中央4.3年の間に、スタチン群16835例(27.1%)、プラセボ群16446例(26.6%)で筋肉痛と筋力低下が報告された
    • rate ratio[RR]:1.03;95%CI 1.01-1.06
  • 内服開始後1年以内では、スタチンは7%(1.07;1.04-1.10)、つまり1000人年あたり11例(6-16)の筋肉痛または筋力低下の増加があった
  • スタチン群で報告された筋関連症状のうち、真にスタチンを原因とするものは15例のうち1例([1.07-1.00]÷1.07)のみであることが示された
  • 内服開始後1年以上では、初発の筋肉痛または筋力低下に有意差はなかった(0.99;0.96-1.02)
  • 全期間で、プラセボとの比較において、高強度スタチン(アトルバスタチン40-80mg、ロスバスタチン20-40mg)は、低〜中強度スタチンよりも筋肉痛または筋力低下のRRが大きかった
    • 1.08 [1.04-1.13] vs 1.03 [1.00-1.05]
  • 内服開始後1年以上でも高強度スタチンではわずかな筋肉痛または筋力低下の増加があった(1.05;0.99-1.12)
  • スタチンの種類や、臨床的状況の違いによって筋肉痛または筋力低下のRRに明確な差は認められなかった
  • スタチン内服により、臨床的意義の乏しいわずかなCK上昇(正常上限の0.02倍)があった

考察・感想

結果のまとめ

スタチンは筋症状をわずかに増加させるが、スタチン内服中に報告される筋症状の9割以上はスタチンに起因するものではないという結果でした。筋症状のリスクは心血管疾患予防のメリットと比べて非常に小さく、スタチン内服中の筋症状に対する臨床的な対応を再考する必要があると著者らは結論づけていました。

動脈硬化性心血管疾患に対するスタチンの効果

心筋梗塞や脳梗塞に代表される動脈硬化性心血管疾患によって、2019年は全世界で約1800万人が死亡しています。LDLコレステロールはその主要な原因の一つです。スタチン内服で長期にLDLコレステロール値を下げることにより、心筋梗塞と脳梗塞のリスクが1mmol/L(≒40mg/dL)低下ごとに4分の1になると過去のランダム化試験で示されています。1)
1)Collins R, et al.  Lancet 2016; 388: 2532–61.
また、LDLコレステロールを下げることによる効果は、性別、年齢、心血管疾患の既往にかかわらず広く認められることが示されています。高齢者におけるスタチンの効果については、本ブログでも以前取り上げました(高齢者でLDLコレステロールを下げる意義はあるか?)。

スタチンの筋肉関連有害事象

スタチンはまれにミオパチー(1/10000人年)や、横紋筋融解症(2-3/100000人年)などの筋肉関連の有害事象を生じることが知られています。ところが、過去のランダム化試験から、スタチンによる筋肉関連有害事象はいわゆるnocebo効果が大半であることが示されています。一方で、バイアスや交絡を排除できていない非ランダム化試験では、スタチンの安全性が適切に評価されていない可能性が指摘されています。

スタチンの強度について

本研究では、高強度スタチンの方が低強度スタチンよりも筋症状のRelative Risk [RR]が大きいことが示されました(1.08 vs 1.03)。また、高強度スタチンでは、内服開始後1年以上経過しても筋症状のリスクがやや高いということでした(1.05;0.99-1.12)。日本でもスタンダードスタチン、ストロングスタチンという用語でスタチンを区別しますが、この研究で高強度スタチンはアトルバスタチン40-80mg、ロスバスタチン20-40mgと定義されています。家族性高コレステロール血症でもない限り、日本でこれほどの用量を使うことはあまりないのではないかと思います。したがって、いわゆるストロングスタチンと呼ばれるものでも、日本で通常使われる用量では低〜中強度スタチンに分類されます。論文では人種差については細かく触れられていませんでしたが、日本のセッティングではスタチンと筋症状の頻度にも違いがあるかもしれません。ちなみにこの研究に含まれるアジア人は全体の8~9%です。

本研究の強みとlimitation

本研究は、大規模二重盲検ランダム化比較試験をもとにメタ解析を行なっており、内的妥当性の高い研究だと言えます。一方、筋症状によってスタチンが中止されたか、甲状腺機能異常などの合併症があるか、相互作用の可能性のある併用薬があるかなどの情報が得られていないことがlimitationとしてあげられていました。

スタチン内服中に筋症状が出たら

論文の中では具体的な指針は示されてはいません。症状の程度やCK上昇を来しているかにもよると思いますが、比較的軽度であれば直ちにスタチンを中止するのではなく、症状の原因となる別の要因がないかを検討し、患者さんに十分に説明した上で、スタチンを継続しても良いと考えます。ただし、一定の割合でスタチンによって筋症状を来すことは確かなので、安易に決めつけずに丁寧に経過を追っていく必要はあるでしょう。

Next Step

患者さんに筋症状が出たり、CK上昇を来した時、真っ先にスタチンの副作用を疑いがちでした。症状の程度にもよりますが、他の原因がある可能性も念頭に、今後は慎重に対応を検討したいと思います。脂質異常症の治療はスタチンをベースにおこなっていますが、効果不十分時の対応(生活指導等も含む)や、個別の薬剤の特徴、薬物相互作用等についても今後学んでいけたらと思います。

参考文献

Common Diseaseの最新エビデンスに関する特集の回です。脂質異常症についての論文が3つ取り上げられています。スタチンのメリットが副作用のリスクを上回ることや、高齢者に対してもスタチンが有効であることなどを示すもので、今回の記事とも関連のある内容でした。

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