学会誌勉強ノート 〜日病総診誌2022:18(3)〜


目次

日本病院総合診療医学会雑誌 2022年第18巻3号


原著:COVID-19

新生会第一病院で経験した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の国内第4波・第5波期における比較検討

古賀俊充, 伊奈研次, 田中義輝, 他. 日病総診誌 2022:18(3):145-150.

概要

  • 透析可能なCOVID-19専用病室を有する新型コロナウイルス感染症重点医療機関
  • 第5波期にはデルタ変異株の発生、抗体治療薬の特例承認、ワクチン接種の普及など、COVID-19を取り巻く状況が大きく変化した
  • 第4波期以降、透析患者へのワクチン接種を強力に推進した
  • 第5波期には、発症7日以内にカシリビマブ・イムデビマブ、中等症Ⅰ以上にレムデシビルを併用した
  • 第4波期/第5波期に受け入れたCOVID-19患者数は19名/17名、年齢中央値83歳/83歳、透析患者17名/4名、ワクチン接種者0名/10名だった
  • 透析患者のCOVID-19発症後90日時点の生存率は第4波期35.3%、第5波期100%だった

考察・感想

透析患者を含むCOVID-19症例の受け入れを行う施設での第4波・5波期の比較でした。
ワクチンの普及、抗体薬の導入により、第5波期では明らかに透析患者におけるCOVID-19の臨床経過が改善しています。CKD、透析患者はCOVID-19の重症化率、致死率が高いことが知られていますが、適切なワクチン接種と治療により予後を改善させられることがよくわかる報告でした。
投稿時点ではCOVID-19の変異株はオミクロン株が主流になり、治療も抗体薬から抗ウイルス薬に移行しています。抗ウイルス薬は併用薬や腎機能による制限を受けます。そうした状況下でCKD、透析患者のCOVID-19診療がどのように変化していくのかも気になるところです。


症例報告: リステリア菌血症

進行大腸癌が進入門戸と考えられるListeria monocytogenes菌血症の1例と当院における侵襲性リステリア感染症のレビュー

見坂恒明, 長谷川貴也, 迫健太郎, 他. 日病総診誌 2022:18(3):151-155

概要

  • 89歳女性、数ヶ月前に上行結腸癌(cT3N1bM0)を指摘された
  • 食欲不振と悪心が持続し入院した
  • 血液培養でListeria monocytogenesが検出され侵襲性リステリア感染症と診断した
  • アンピシリン4g/日投与を開始し症状は改善、第26日に退院した

考察・感想

進行大腸癌患者に合併したリステリア菌血症の症例でした。
セファロスポリン系に耐性があり、治療はアンピシリン等のペニシリン系抗菌薬が推奨されます。本症例のように多くは免疫抑制状態の患者に発症し、固形がんの合併が多いということでした。消化器悪性腫瘍との関連ではStreptococcus gallolyticusが有名ですが、侵襲性リステリア感染症についても悪性腫瘍を念頭に置いた診療が必要だと学びました。


症例報告:後天性血友病A

抗血小板薬内服中の脊椎手術後に出血性ショックを来し判明した後天性血友病Aの1例

矢野あゆみ, 二瓶俊一, 大竹晶子, 他. 日病総診誌 2022:18(3):156-162.

概要

  • 80代女性、脳梗塞後で抗血小板薬内服中
  • 転倒して救急搬送され、第一腰椎破裂骨折の診断で入院
  • 来院時、四肢・臀部に皮下出血、貧血、APTT延長を認めた
  • 経皮的椎体形成術を施行後、創部出血でショックとなりICU入室
  • 凝固第Ⅷ因子活性低下、凝固第Ⅷ因子インヒビター上昇より後天性血友病Aと診断
  • 遺伝子組み換え活性型凝固第Ⅷ因子製剤の投与を開始
  • 全身状態改善傾向となり、術後78日目に退院
  • 退院後、凝固第Ⅷ因子正常、インヒビター陰性が続いている

考察・感想

術後の出血性ショックを契機に後天性血友病Aと診断された症例でした。
本症例では当初、広範な皮下出血は抗血小板薬内服によるものと判断されていました。血小板やPTが正常である一方でAPTTが110secと著明に延長している点から後天性血友病を疑えるかがポイントでした。
抗血小板薬や抗凝固薬を内服している高齢者は非常に多いですし、それにより本疾患がマスクされるケースは少なくないと考えます。後天性血友病患者はほとんどが初めに血液内科以外の診療科を受診するとされており、プライマリ・ケアを担う総合診療医が遭遇する可能性も十分あります。稀な疾患ですが、広範な皮下出血やAPTT延長を見た際には適切に本疾患を想起できるようにしておきたいです。


症例報告:古典的ホジキンリンパ腫

精神的負担を考慮し、治療法を選択した統合失調症合併再発・難治性古典的ホジキンリンパ腫の1例

長瀬大輔, 恩田直輝, 入田博史, 他. 日病総診誌 2022:18(3):163-170

概要

  • 34歳男性、統合失調症で薬物療法中
  • 頸部、鼠径リンパ節腫脹と発熱で受診
  • 古典的Hodgkinリンパ腫、結節硬化型、臨床病期ⅣB期、国際予後指数高リスク群と診断
  • ABVD療法、auto-SCT後、地固め療法中に再発
  • 患者、家族、移植医、精神科医、コメディカルと協議し、治療による有害事象、精神状態への影響を考慮し、抗PD-1抗体療法を選択
  • 懸念された有害事象を認めず、QOLを維持しながら治療を継続できた

考察・感想

統合失調症治療中患者に発症した古典的Hodgkinリンパ腫の症例でした。
古典的Hodgkinリンパ腫の治療法は多岐に渡り、その中から治療の効果、有害事象、生活への影響等を総合的に勘案して患者さんに合ったものを選択するのは非常に難しいと感じました。患者、家族、移植医、精神科医、コメディカルと綿密にコミュニケーションをとって、繊細な舵取りをされたことがわかる報告でした。


症例報告:巨赤芽球性貧血

完全菜食主義による重度の巨赤芽球性貧血に対し、無輸血で多職種介入した1例

加藤真優, 川名秀俊, 齋藤博文. 日病総診誌 2022:18(3):171-176.

概要

  • 60歳女性、特記すべき既往なし
  • 体動困難で救急搬送
  • 深部感覚鈍麻、病的反射、Hb2.5g/dL、MCV 132.1flと重度の大球性貧血
  • 約30年の完全菜食主義に起因するビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血、亜急性連合性脊髄変性症と診断
  • ビタミンB12補充療法により貧血・神経症状の改善を得られた

考察・感想

完全菜食主義に起因する重度の巨赤芽球性貧血、亜急性連合性脊髄変性症の症例でした。
菜食中心の食生活でビタミンB12欠乏を呈した症例は私も経験がありますが、ここまで重度のものは見たことがありません。Hb2.5の貧血で生存していたという事実にまず驚きました。ビタミンB 12は肉類、魚介類、卵、乳製品などの動物性食品に多く含まれます。本症例は栄養サポートチームによる介入もありましたが、食事のみで必要量の摂取は難しいと判断され、補充療法を継続する方針となっていました。ビタミンB 12欠乏が長期に及ぶ場合は神経症状は不可逆的になり得るとのことであり、早期の診断と治療介入が重要です。


症例報告:腰椎椎間関節偽痛風

一時ペーシングカテーテル留置後に生じた腰椎椎間関節偽痛風の1例

岡本勝, 橋本健志, 涌波 優, 他. 日病総診誌 2022:18(3):177-181.

概要

  • 86歳女性、高血圧、骨粗鬆症
  • 徐脈頻脈症候群に対し一時ペーシングカテーテルを留置
  • 4日後CRP 14.5 mg/dLと上昇、5日後38℃の発熱
  • カテーテル関連血流感染を疑い、ペーシングカテーテル抜去、セフトリアキソン開始
  • 体動時の腰痛、腰椎叩打痛あり
  • 腰椎単純CTでL2/3椎間孔付近、横靭帯、棘突起周囲に石灰沈着
  • 腰椎単純MRIでL2、L3椎体および椎骨周囲組織にT1強調像で低信号、脂肪抑制T2強調像で高信号を呈する領域
  • 腰椎化膿性脊椎炎を疑ったが血液培養は陰性、抗菌薬一時中止
  • エトドラク定期内服開始後、急速に腰痛が軽減、発熱・炎症反応が改善
  • 腰椎周囲炎症部位にCTガイド下穿刺吸引検体採取を行ったが培養陰性
  • 検体採取後、セファゾリンで抗菌薬治療を再開
  • 右椎間関節包から吸引した関節液にCPP結晶を認め、臨床経過と合わせ偽痛風と診断
  • セファゾリン投与14日目にCRP陰性化、抗菌薬終了し、その後発熱・腰痛の再燃なく経過

考察・感想

カテーテル関連血流感染と化膿性脊椎炎を疑い各種検査・治療を行なったが、最終的に腰椎椎間関節偽痛風と診断された症例でした。
カテーテル留置後に発熱・腰痛を来した場合、やはり第一に疑うべきは血流感染、化膿性脊椎炎ですし、本症例も経過を通して常にその可能性を念頭に検査・治療が行われていました。CT、MRIによる画像評価に加え、2回の血液培養、CTガイド下生検、腰椎椎間関節穿刺を行い、抗菌薬投与も合計約3週間行われています。化膿性脊椎炎では血液培養の陽性率が50%程度、経皮的穿刺吸引採取検体の培養陽性率は24~74%とのことであり、決して高くありません。したがって、培養陰性であっても化膿性脊椎炎を除外するのは慎重にならざるを得ません。本症例では椎間関節液のCPP結晶を認め結晶性関節炎の証明を得られたことに加え、抗菌薬中断中にNSAIDsを開始したタイミングでCRPが低下し腰痛が軽快したこと、比較的早期にCRPの陰性化を確認できたことも、抗菌薬終了を決断できた要因だったのではないかと推察します。抗菌薬が効いているように見える経過や、炎症反応が陰性化せず遷延する経過を辿った場合は、抗菌薬終了のタイミングの判断はとても難しいのではと感じました。
脊椎に生じる偽痛風としてCrowned dens syndromeは有名ですが、胸腰椎に生じる椎間関節偽痛風は盲点になりやすいと思うので、気をつけたいです。


総説:原発性アルドステロン症

総合診療の場で原発性アルドステロン症(PA)のスクリーニング、診断をする意義

楠博, 長澤康行, 山崎博充, 他. 日病総診誌 2022:18(3):182-189.

概要

  • PAについて
    • アルドステロンの自律・過剰分泌による尿細管Na・水再吸収、K排泄亢進により高血圧を呈する
    • 本態性高血圧に比べ脳心血管合併症の頻度が高い
    • 低K血症は主症候の一つだが、K正常例も多い
  • PAの診断
    • スクリーニングは血漿アルドステロン濃度(PAC)、血漿レニン活性(PRA)を測定し、アルドステロン/レニン比(ARR)で判定する
    • PAC、PRAは体位、採血時間の影響を受け、早朝空腹時の安静臥位後の採血が望ましいが、随時条件での測定も可能である
    • スクリーニングの際、降圧薬はPACやPRAに影響の少ないCa拮抗薬、α遮断薬の単独または併用への変更が望ましいが、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬の内服下でも、偽陰性の可能性を考慮しつつスクリーニングは可能である
    • 2021年4月からPACの測定法がCLEIA法に変わり、陽性判定基準が改訂されている
    • スクリーニング陽性例は、機能確認検査(カプトプリル負荷試験、生理食塩水負荷試験)を検討する
    • 負荷試験陽性であればPAと確定診断される
  • PAの治療
    • 副腎摘出術による根治を行う場合、副腎静脈サンプリングによる局在・病型診断を行う
    • 両側性病変と診断された場合は、副腎摘出の適応とならず薬物治療となる
    • 薬物治療はMR拮抗薬を第一選択とする
    • 高血圧や低K血症の管理とレニン抑制解除(PRA≧1ng/nL/h)を目安にすれば、心腎血管リスクを本態性高血圧と同等まで改善できる
    • 降圧効果は副腎摘出術がMR拮抗薬よりも優れる
    • 長期的な臓器障害の進行と生命予後に対する効果は、副腎摘出術がMR拮抗薬よりも優れるか、同等である

考察・感想

原発性アルドステロン症(Primary Aldosteronism; PA)のスクリーニング、診断、治療についての総説でした。
高血圧はcommon diseaseであり、二次性高血圧のスクリーニングはプライマリ・ケア医が適切に行うべき仕事の一つです。この総説ではスクリーニング検査時の注意点や診断・治療の流れについて一通り網羅されており、良い復習になりました。
確定診断と治療は専門医に紹介することが多いので、我々にとって特に重要なのはスクリーニング検査の部分です。PACの測定法が変更になり、陽性判定基準が改定されたのは要注意です。結果を解釈する際は、測定法や単位をしっかり確認して判定する必要があります。ホルモン検査時の早朝・安静臥位やRAA系阻害薬中止はガイドラインでは必須ではないとされていますが、この点はあまり認知されていない気がします。できるだけ適切な条件での検査を心がけますが、既に多剤併用で治療している難治性高血圧の症例では、RAA系阻害薬中止が難しいシチュエーションもあり得るかと思います。やむを得ずRAA系に影響する降圧薬を投与しながら検査を行う場合は、その薬が偽陽性、偽陰性どちらに作用するかを踏まえた上で、必要に応じて条件を整えて検査のやり直しを検討する必要があります。臨床の場面でPAスクリーニングの方法や検査結果の解釈、方針決定に迷う場合は『原発性アルドステロン症 診療ガイドライン 2021』を一度チェックすることをお勧めします。


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