高血圧治療は起立性低血圧のリスクを高めるか?

最新のガイドラインでは厳格な血圧コントールが推奨され、降圧目標も従来より低く設定されています。血圧低下を積極的に目指す治療によって起立性低血圧のリスクは高まらないのでしょうか。

Effects of Intensive Blood Pressure Treatment on Orthostatic Hypotension : A Systematic Review and Individual Participant-based Meta-analysis.Juraschek SP, Hu JR, Cluett JL, et al.Ann Intern Med. 2021 Jan;174(1):58-68. doi: 10.7326/M20-4298. Epub 2020 Sep 10.PMID: 32909814 

論文の概要

【背景】 

 積極的降圧治療は心血管疾患のリスクを低下させるが、起立性低血圧の原因となる懸念がある


【目的】

 高血圧患者に対する積極的降圧治療が起立性低血圧に与える影響を評価する

【データ】

  • MEDLINE, EMBASE, Cochrane CENTRALの2019年10月7日までの文献を言語の制限なく検索した
  • 2人の研究者が独立に文献を抽出し、別の研究者がバイアスリスクを評価した


【結果】

  • 対象は18,466例、計127,882回の追跡調査
  • 積極的降圧は起立性低血圧のリスクを低下させた(オッズ比[OR]:0.93[95%CI:0.86~0.99])
  • 無作為割り付け前の起立性低血圧の有無によって結果は変わらなかった
  • sensitivity analysesでも結果は変わらなかった

考察・感想

積極的な降圧治療は起立性低血圧のリスクを上げず、むしろ低下させるという結果でした。

この傾向は、ベースラインの収縮期血圧が低い(<110mmHg)群、糖尿病の合併のない群でより顕著でした。

 →糖尿病なし(OR:0.90;95%CI:0.83~0.98)、収縮期血圧<110mmHg(OR:0.66;95%CI:0.48~0.91)

また、年齢、性別、人種のサブグループでも結果は変わりませんでした。

血圧を厳格に管理することによる心血管イベント抑制・生命予後改善の効果については既に明らかにされており、起立性低血圧への懸念から降圧治療を弱めることは相応しくないというのがこの論文の主張でした。ベースラインの血圧が低く、降圧治療を弱める判断をされやすい集団ほど、降圧による起立性低血圧リスク低下の恩恵を受けやすい可能性が示唆されたのは興味深いです。

なぜ降圧治療が起立性低血圧のリスクを下げるのかは不明ですが、降圧により圧反射機能が改善されたり、左室肥大と動脈硬化を軽減し拡張期充満が改善されるという機序が想定されているようです。

本研究では75歳以上の高齢者も一定数含まれ、年齢による層別化でも結果は変わりませんでしたが、過降圧が問題となるのは、さらに高齢でフレイルのある患者のように思われるので、この研究の結果を安易に一般化するのには注意が必要だと思います。転倒や失神といったイベントが評価されていないこともlimitationの一つとして挙げられていました。

降圧薬の種類による検討はされていませんが、α遮断薬は起立性低血圧を悪化させると言われており、処方の選択の際に注意が必要です。

Next Step

近年、高齢の高血圧症患者についても積極的な降圧が勧められるようになっています。実際、積極的に降圧を強化しても意外と有害事象に困る経験をしません。一方で、「血圧を下げ過ぎるのはよくない」という患者さんの意識が治療強化の障壁になる場面が多いと感じます。どのように患者さんに説明し、納得していただくかという点も今後の課題と考えています。

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