Multiimorbidity(多疾患罹患)は、高齢化の進行とともに関心が高まっており、このテーマを扱う研究は近年非常に増えています。今回は、多疾患罹患と認知症の発症のリスクについて検討した論文を読みました。
論文の概要
【目的】
中年期・老年期の多疾患罹患と認知症発症の関連を明らかにする
【デザイン】
前向きコホート研究
【参加者】
Whitehall Ⅱ studyに参加するロンドンの公務員
ベースライン時で35-55歳の10095人
【主要アウトカム】
1985〜2019年のフォローアップ期間中に新規発症した認知症
【結果】
- 多疾患罹患の有病率は55歳で6.6%(655/9937)、70歳で31.7%(2464/7783)だった
- フォローアップ期間(中央値31.7年)に639例の認知症発症があった
- 多疾患罹患は、その後の認知症発症と関連があった
- 55歳時点での多疾患罹患では、0〜1疾患罹患と比較し、1000人年あたり認知症罹患率の差:1.56、95%信頼区間[CI]:0.62~2.77;ハザード比[HR]:2.44、[CI]:1.82~3.26)
- 多疾患罹患と認知症発症の関連は、多疾患罹患の年齢が低いほど強い傾向があった
- 65歳時での認知症罹患のハザード比[HR]は、多疾患罹患が55歳以前HR:2.46(1.80~3.36)、55~60歳HR:1.41(1.01~1.96)、60~65歳HR:1.51(1.16~1.97)
- 多疾患罹患と認知症発症の関連は罹患疾患が多いほど強かった
- 認知症発症のハザード比[HR]は、55歳時点で2疾患罹患がHR:2.14(1.55~2.95)、3疾患以上罹患がHR:4.96(2.54~9.67)、70歳時点で2疾患罹患がHR:1.40(1.14~1.72)、3疾患以上罹患がHR:1.65(1.25~2.18)
<補足>
- 多疾患罹患の定義
以下の13の慢性疾患に2つ以上罹患している状態
冠動脈疾患、脳卒中、心不全、糖尿病、高血圧、がん、CKD、COPD、肝疾患、うつ、その他の精神疾患、パーキンソン病、関節炎/関節リウマチ
各疾患への罹患情報は国民保健サービス(National Health Service)のデータベースに基づく
- 解析にあたり調整された因子
社会的背景:年齢、性別、人種、教育、婚姻
健 康 行 動:身体活動、飲酒、喫煙、食習慣(野菜・果物の摂取量)
考察・感想
多疾患罹患が認知症の発症リスクになるというのは、直感的にも受け入れやすい内容です。本文では各疾患ごとのリスクについても検討されており、既に認知症との関連が知られているパーキンソン病を除けば、精神疾患が最もハザード比が高いという結果でした。また、多疾患罹患と死亡に関連があることも示されていました。
この論文で強調されていたのは、多疾患罹患状態となる年齢が若いほど認知症リスクが高く、年齢が上がると関連が弱くなるという点でした。多疾患罹患への介入が予後を改善することを示す研究ではありませんが、中年期に罹患した慢性疾患の早期診断・治療を促す一つの動機づけにはなるかもしれません。
ちなみに、同様の結果は高血圧と認知症の関連を検討した研究でも認められます。中年期の高血圧が認知症のリスクになるという多くの報告がある(HAAS study、ARIC studyなど)一方で、老年期の高血圧については議論が分かれています。Mahinrad S, et al. Rev Cardiovasc Med. 2021.
Limitationにも記載がありましたが、疾患の情報がNational Health Serviceのデータベースなので、診断のプロセスや治療内容・重症度等の情報は得られず、解釈に注意を要します。
Next Step
Multimorbidity(多疾患罹患)は総合診療医に親和性の高いテーマです。Multimorbidityに関連する患者背景や、付随する課題(ポリファーマシーや医療経済上の問題など)についても今後さらに理解を深めていきたいと思います。一方、Multimorbidityへの介入についての研究はまだまだ少ないようです。実臨床に活かすという観点では、論文を読むのとはまた違ったアプローチでの勉強が必要かもしれません。
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