高齢者でLDLコレステロールを下げる意義はあるか?

LDLコレステロール低下は心血管イベントの抑制効果が知られています。75歳以上の高齢患者でもLDLコレステロールを下げる治療を行う意義はあるのでしょうか。

Efficacy and safety of lowering LDL cholesterol in older patients: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials.Gencer B, Marston NA, Im K, et al.Lancet. 2020 Nov 21;396(10263):1637-1643. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32332-1. Epub 2020 Nov 10.PMID: 33186535 

論文の概要

【背景】

  • 高齢者でLDLコレステロールを下げる臨床的意義は議論の余地がある
  • 高齢者におけるLDLコレステロール低下のための治療のエビデンスを検証する

【方法】

  • MEDLINE、Embaseに2015年5月1日〜2020年8月14までに出版された文献を言語にかかわらず検索した
  • 2018年のアメリカ心臓病学会(ACC)、アメリカ心臓協会(AHA)のガイドラインが推奨するLDLコレステロールを低下させる薬剤のランダム化比較試験も含む
  • 75歳以上の高齢者を対象に2年以上追跡した試験を含む心不全や透析患者のみを対象とした試験は除外した
  • LDLコレステロール1mmol/Lあたりの心血管イベントのリスク比をメタ解析した
  • イベントは心血管死、心筋梗塞、急性冠症候群、脳卒中、冠動脈血行再建とした

【結果】

  • 29試験から244,090例が組み入れられた
  • 21,492例(8.8%)が75歳以上の高齢者、そのうち11,750例(54.7%)がスタチンの試験、6,209例(28.9%)がエゼチミブの試験、3,533例(16.4%)がPCSK9阻害薬の試験の参加者だった
  • 追跡期間中央値:2.2年〜6.0年
  • LDLコレステロール低下は、高齢者の主要血管イベントを有意に低下させた
    • LDLコレステロール1mmol/Lあたり26%(RR:0.74[95%CI:0.61~0.89];p=0.0019)
  • 75歳以下のリスク低下との間に有意差はなかった(0.85[0.78~0.92];pinteraction=0.37)
  • 高齢者では、スタチンとスタチン以外でRRに有意差はなかった
    • スタチン(0.82[0.73~0.91])、スタチン以外(0.67[0.47~0.95];pinteraction=0.64)
  • LDLコレステロール低下の効果は評価項目それぞれに認めた
    • 心血管死(0.85[0.74~0.98])、心筋梗塞(0.80[0.71~0.90])、脳卒中(0.73[0.61~0.87])、冠動脈血行再建(0.80[0.66=0.96])

考察・感想

75歳以上の高齢者でも、LDLコレステロールを低下させることにより、心血管イベントを抑制できることが示されました。

高コレステロール血症は、患者の属性(年齢や基礎疾患など)、1次予防か2次予防かで治療の戦略が異なっています。ACC/AHAのガイドラインでは、75歳以上の高齢者については、それより若い集団と比べて1次予防、2次予防ともに推奨度、エビデンスレベルともに低い扱いになっているか、そもそも記載がなかったりします。今回の研究により、高齢者の高LDLコレステロール血症に対する治療がより強く推奨されることになるかもしれません。高齢者は心血管疾患の有病率が高く、治療による絶対リスク減少は若年者より大きいはずなので、高齢者こそ積極的に治療すべきという主張がなされていました。

現行のガイドラインではスタチンが推奨度・エビデンスレベルともに高くなっており、他の薬剤は補助的な位置付けにされていますが、本研究ではスタチン以外の薬剤でも有意にイベントリスク低下を認め、スタチンに劣らなかったのも興味深いポイントです。

スタチンが脳出血のリスクを高めるという研究もありますが、本研究ではそのような関係は認められませんでした。

どのような患者が治療の対象となるか、1次予防でも2次予防でも介入が推奨されるのかは、更に検証が必要なところだと思います。70歳以上を対象としたスタチンの1次予防効果を検証するランダム化比較試験も現在進行中のようです。

Next Step

脂質異常症は患者さんの数も多いですし、心血管疾患リスクに深く関わるため臨床的な重要性も高いです。研究の数も多く、この記事を書くにあたって他の論文もいくつか参照しましたが、正直今回だけでは消化しきれませんでした。患者のリスクを評価し、一人一人に適切な治療選択を行うには、もう少し蓄積されたエビデンスを吟味する必要を感じます。引き続き関連する論文を勉強していこうと思います。

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