急性期脳梗塞に対する機械的血栓回収療法の有効性を示すエビデンスが蓄積されてきていますが、機能予後の改善効果は満足できるものとは言えません。今回取り上げるのは、血栓回収後に血栓溶解療法を追加することで転帰をさらに改善させられるのかを検討した研究です。
Effect of Intra-arterial Alteplase vs Placebo Following Successful Thrombectomy on Functional Outcomes in Patients With Large Vessel Occlusion Acute Ischemic Stroke: The CHOICE Randomized Clinical Trial. Renú A, Millán M, San Román L, et al; CHOICE Investigators.JAMA. 2022 Mar 1;327(9):826-835. doi: 10.1001/jama.2022.1645.PMID: 35143603
論文の概要
【背景】
- 脳主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞患者で機械的血栓回収療法によって再灌流を得られた者のうち、90日時点で障害を認めないのはわずか27%とされている
- これには微小循環の再灌流が不十分であることが関係している可能性がある
【目的】
機械的血栓回収術療法後にアルテプラーゼ動注を追加することで転帰が改善するか検討する
【デザイン、セッティング、対象】
- デザイン:後期第2相プラセボ対照ランダム化二重盲検試験
- 期間:2018年12月〜2021年5月
- セッティング:スペイン、カタルーニャ地方の7つの脳卒中センター
- 対象:発症24時間以内に血栓回収療法を施行された脳主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞患者121例
- expanded Treatment in Cerebral Ischemia angiographic score(eTICI スコア) :2b50〜3
【介入】
対象はアルテプラーゼ(0.225mg/kg ; 最大用量 22.5mg)動注群(n=61)とプラセボ群(n=52)にランダム割付された
【評価項目】
- 主要評価項目:90日時点でmodified Rankin Scale 0~1を達成した患者の割合
- 安全性評価項目:症候性頭蓋内出血と死亡の割合
【結果】
- COVID-19流行により、早期に終了となった
- 血栓回収術により治療された急性期脳梗塞患者1825例のうち、eTICIスコアの基準を満たしたのは748例(41%)だった
- 121例(7%)がランダム割付された
- 平均年齢70.6[SD 13.7]、女性57例[47%]
- 115例(6%)が割付通りの治療を受けた
- 90日時点でmodified Rankin Scale 0~1の割合はアルテプラーゼ動注群59%(36/61)がプラセボ群40.4%(21/52)よりも有意に高かった
- 調整リスク差 18.4%; 95%CI 0.3-36.4%; P=0.047
- 24時間以内の症候性頭蓋内出血の割合は、アルテプラーゼ動注群0%、プラセボ群3.8%だった
- リスク差 -3.8%; 95%CI -13.2%-2.5%
- 90日死亡率はアルテプラーゼ動注群8%、プラセボ群15%だった
- リスク差 -7.2%; 95%CI -19.2-4.8%
<補足>
expanded Treatment in Cerebral Ischemia angiographic score(eTICI スコア)
脳血管造影による脳血管再灌流の評価指標。血栓回収療法後eTICIスコア 2b50以上は再灌流成功と判断される。
考察・感想
脳主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞患者に対し、機械的血栓回収療法後にアルテプラーゼ動注を追加することで、頭蓋内出血を増やすことなく、90日後の転帰を改善させるという結果でした。
微小循環再灌流の意義
血栓回収療法の効果は先行研究で明らかにされていますが、modified Rankin Scale 0~1 の良好な転帰を得られる患者の割合は限られています。脳血管造影で再灌流成功と判断される症例でも、微小血管に血栓が残存している可能性を否定できません。血管造影では明らかにされない灌流低下がCT-perfusionで指摘されたという報告もあります。本研究の結果から、血栓回収後のアルテプラーゼ動注が微小灌流を改善した可能性が示唆されます。
アルテプラーゼ静注と動注の併用について
本研究では対象の6割が血栓回収前にアルテプラーゼ静注を行われていましたが、アルテプラーゼ動注追加による頭蓋内出血の有意な増加はありませんでした。現行のガイドラインでは、機械的血栓回収療法が施行される多くの症例でアルテプラーゼ静注が併用されますが、アルテプラーゼ動注追加はそのような症例でも安全に施行可能であることが示されました。
日本のガイドラインにおける位置付け
『脳卒中治療ガイドライン2021』には、アルテプラーゼ動注に関する記載はありません。
「経動脈的局所血栓溶解療法」についての記載はありますが、これはウロキナーゼを使用するものであり、本研究で行われたものとは別物です。こちらはアルテプラーゼ静注療法との併用ができないこと、症候性頭蓋内出血の発症率が高いことなどから、適応はかなり限られる印象でした。
本研究のlimitation
COVID-19流行により十分な症例数を確保できず、計画の60%ほどのサンプルサイズで中断せざるを得なかったそうです。これによりエビデンスとしてパワー不足になってしまったことは否めません。また、アルテプラーゼ禁忌(主に抗血栓薬の内服)の症例が多かったため、血栓回収療法を施行された患者の7%しか解析の対象となりませんでした。本研究の結果を広く脳梗塞症例一般に適用できない点にも注意が必要です。
Next Step
アルテプラーゼ静注は時間との勝負なので専門医の指示のもと初期診療を担当したプライマリ・ケア医が関わる場面もあるかもしれませんが、今回の研究は血栓回収療法を行ってからの話なので我々にはやや専門的な内容でした。脳梗塞の血栓回収療法に関連した研究は日進月歩なので、今後も最新のエビデンスについていけるように勉強を続けていきたいと思います。
参考文献
脳梗塞はプライマリ・ケア医が遭遇する頻度の高い疾患なので、最新のガイドラインは必携だと思います。
コメント