2型糖尿病患者が高血圧症を併発することはよく経験されることで、これらを同時に治療することは珍しくありません。
今回取り上げるのは、降圧治療が糖尿病の発症そのもののリスクを下げるかを検討した研究です。
Blood pressure lowering and risk of new-onset type 2 diabetes: an individual participant data meta-analysis.Nazarzadeh M, Bidel Z, Canoy D, et al. ; Blood Pressure Lowering Treatment Trialists’ Collaboration.Lancet. 2021 Nov 13;398(10313):1803-1810. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01920-6.PMID: 34774144
論文の概要
【背景】 降圧治療は糖尿病の大小血管合併症の予防に有効であるが、糖尿病そのものの予防に果たす役割は不明である
【方法】
- 1段階法メタアナリシス(one-stage individual participant data meta-analysis)で降圧治療と2型糖尿病の関連を検証した
- ネットワークメタアナリシス(individual participant data network meta-analysis)で降圧薬の種類ごとの2型糖尿病との関連の違いを検証した
- 降圧薬の効果を検証する試験群であるBlood Pressure Lowering Treatment Trialists’ Collaboration(BPLTTC)のデータを使用した
- 1973年〜2008年に行われた22件の試験を解析対象とした
【結果】
- 1段階法メタアナリシスには、19件の無作為化比較試験から145,939人(男性88,500[60.6%]、女性57,429[39.4%])が組み込まれ、ネットワークメタアナリシスには22件の試験が組み込まれた
- フォローアップ期間(中央値4.5年)に9883例が2型糖尿病を発症した
- 収縮期血圧が5mmHg低下すると糖尿病の発症リスクは11%低下した(ハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.84~0.95)
- 降圧薬の種類別では、プラセボと比較した2型糖尿病の発症リスクは、ACE阻害薬とARBで低下し、β遮断薬とサイアザイド利尿薬で上昇し、Ca拮抗薬では関連を認めなかった
- それぞれのリスク比[RR]は、ACE阻害薬(RR:0.84、CI:0.76~0.93)、ARB(RR:0.84、CI:0.76~0.92)、β遮断薬(RR:1.48、CI:1.27~1.72)、サイアザイド利尿薬(RR:1.20、CI:1.07~1.35)、Ca拮抗薬(RR:1.02、CI:0.92~1.13)
考察・感想
高血圧を合併する糖尿病患者では、降圧治療は糖尿病性腎症の進行抑制や心血管イベントの予防のために重要な役割を果たします。本研究では、降圧治療が糖尿病そのものの発症リスクも下げる可能性が示されました。降圧薬の中でも特にACE阻害薬とARBが糖尿病発症リスク低下と関連があり、降圧薬を選択する際の参考となる知見を提供するものだと本文で述べられています。なぜ降圧治療が糖尿病の発症を抑制するのかについても、降圧薬の種類ごとに考察されており、興味深い内容でした。
糖尿病を合併した患者の降圧治療について、日本のガイドラインではどのように扱われているかを確認しました。以前のガイドラインでは、ACE阻害薬・ARBは糖尿病合併高血圧に対して他の降圧薬よりも積極的に推奨されていました。しかし、投稿日(2022年2月)時点で最新の『高血圧治療ガイドライン2019』では、ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬、サイアザイド系利尿薬を第一選択として同列に推奨し、ACE阻害薬・ARBを他の降圧薬より推奨するエビデンスはないとされています。ただし、微量アルブミン尿、蛋白尿を伴う糖尿病性腎症の高血圧に対しては、従来どおりACE阻害薬・ARBを特に推奨するとされていました。
高血圧以外の疾患と降圧治療との関連を検討した研究は他にも多くありますが、実臨床における降圧治療の目的は、あくまでも死亡や脳心血管イベントといったハードエンドポイントの改善であることは忘れないようにしたいです。
Next Step
高血圧や糖尿病は総合診療医にとってよく目にする、慣れ親しんだ疾患のようでありながら、患者の背景や治療の選択肢が多彩であり、外来診療の中で意外に悩まされることの多い疾患のように思います。これらは新薬や新しいエビデンスが次々に登場するため、最新の知見に遅れずに付いていけるようにしたいと思います。
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