頸動脈狭窄に対する治療として、頸動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)と頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy:CEA)があります。近年、治療法の進歩によりCASのCEAに対する非劣性を示す研究が多く出されています。今回取り上げるのは無症候性高度頸動脈狭窄におけるCASとCEAの有効性を比較した研究です。
Second asymptomatic carotid surgery trial (ACST-2): a randomised comparison of carotid artery stenting versus carotid endarterectomy.Halliday A, Bulbulia R, Bonati LH, Chester J, Cradduck-Bamford A, Peto R, Pan H; ACST-2 Collaborative Group.Lancet. 2021 Sep 18;398(10305):1065-1073. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01910-3. Epub 2021 Aug 29.PMID: 34469763
論文の概要
【背景】
- 高度の頸動脈狭窄を有するが、最近の脳卒中や一過性脳虚血を起こしていない無症候性の患者で、頸動脈ステント留置術(carotid artery stenting: CAS)と頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy: CEA)はいずれも頸動脈の開通性を回復させ、長期的な脳卒中リスクを低減させる
- CASとCEAのいずれも1%程度、手技に関連した脳卒中や死亡のリスクがある
- 両者の長期的な予防効果を比較するには、大規模な無作為化試験によるエビデンスが求められる
【方法】
- ACST-2試験は介入を要する重度頸動脈狭窄を伴う無症候患者に対するCASとCEAを比較した国際多施設共同無作為化試験である
- 片側または両側に高度頸動脈狭窄があり、医師との間に治療の合意が得られた患者が適格とされた
- 患者はCASとCEAのいずれかに無作為に割り当てられ、治療後1ヶ月と年1回の追跡を平均5年間受けた
- 術後30日以内のイベントを手技に関連したイベントとした
- Intention-to-treat解析を行った
- 手技関連ハザードの解析にテーブル解析を用いた
- 非手技関連脳卒中の解析にKaplan-Meier法とlog-rank検定法を用いた
【結果】
- 2008年1月15日〜2020年12月31日に、130施設の3625例が無作為割り付けされた
- 1811例がCAS群に、1814例がCEA群に割り付けられた
- 手技に関連して全体の1%で機能障害を伴う脳卒中または死亡(CAS群15例、CEA群18例)が発生した
- 手技に関連して全体の2%で機能障害を伴わない脳卒中(CAS群48例、CEA 群29例)が発生した
- 手技に関連しない機能障害を伴う脳卒中と死亡は両群で2.5%に発生した
- 脳卒中全体では、CAS群に5.3%、CEA群に4.5%発生した
- rate ratio[RR]:1.16, 95%CI:0.86-1.57;p=0.33
- 全てのCAS群とCEA群を比較した試験における手技に関連しない脳卒中のリスクは、症候性・無症候性の患者で同等だった
- overall RR:1.11, 95%CI:0.91-1.32;p=0.21
考察・感想
無症候性の高度頸動脈狭窄に対して、CASとCEAの間で機能障害を伴う脳卒中や死亡の長期的なリスクに差はないという結果でした。高度頸動脈狭窄に対するCAS・CEAの効果を示すエビデンスは蓄積されつつありますが、無症候の患者に対する無作為化試験は限られていました。本研究により、症候性・無症候性に関わらずCASとCEAでほぼ同等の長期的効果が期待できることが示唆されました。
『脳卒中治療ガイドライン2021』では頸動脈狭窄の治療について次のように記載されています。
- 高度の無症候性頚動脈狭窄では、抗血小板療法、降圧療法、スタチンによる脂質低下療法を含む最良の内科的治療による効果を十分に検討し、画像診断で脳卒中高リスクと判断した症例では、これに加えて、手術および周術期管理に熟達した術者と施設においてCEAを考慮することは妥当である
- 高度の無症候性頚動脈狭窄で、CEAの標準・高リスク例では、CEAの代替療法として、適切な手技トレーニングを受けた術者によるCASを行うことを考慮することは妥当である
ガイドライン上は、CEAの優先度が高く、CEAが不適な場合にCASを考慮してもよいという位置付けに見えますが、比較的低侵襲である等のメリットから、施設によってはCASをより積極的に行っているようです。本研究の結果を受けて、ますますCASが選択される傾向が強くなるかもしれません。
本試験はCASやCEAを行うべきか、あるいはいつ行うべきかを論じるものではなく、CASとCEAの治療の有効性を直接比較したものです。どちらの治療を選択するかは専門医の仕事なので、非専門医が深入りするところではないと思いますが、頸動脈狭窄の患者を外来でフォローすることは我々にもあります。標準的な治療について知った上で、必要に応じて適切に紹介ができるようにしておきたいです。
Next Step
頸動脈狭窄をフォローする上で、「動脈硬化リスクファクターの管理」、「最良の内科的治療」の部分については、総合診療医も担うべき重要な役割だと思います。内科的治療と外科的治療を比較する試験も現在進行中のようですので、そちらの結果にも注目したいと思います。
参考文献
脳卒中治療ガイドラインは2年ごとに追補版が出ていましたが、これは6年ぶりに全面改訂された、投稿時点(2022年5月)で最新のガイドラインです。この分野は頻繁に変更があるので、適宜catch upできるよう心がけたいです。
「頸動脈狭窄症に対するCAS vs CEA」という特集があり、それぞれの術前評価・術後管理・治療選択について、非専門医にもわかりやすく、詳しく書かれていました。
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