バレニクリンとニコチンパッチの併用で禁煙成功率は上がるか?

禁煙補助薬として使用されるバレニクリン(商品名:チャンピックス)とニコチンパッチは通常どちらか一方を選択します。2剤を併用すれば単独で使うよりも禁煙成功率は高くなるのでしょうか。

Effects of Combined Varenicline With Nicotine Patch and of ExtendedTreatment Duration on Smoking Cessation: A Randomized Clinical Trial. Baker TB, Piper ME, Smith SS, Bolt DM, Stein JH, Fiore MC.JAMA. 2021 Oct 19;326(15):1485-1493. doi: 10.1001/jama.2021.15333.PMID: 34665204

論文の概要

【目的】

  • バレニクリン単独とバレニクリンとニコチンパッチ併用の禁煙効果を比較する
  • 標準的な治療期間(12週)と延長した治療期間(24週)の禁煙効果を比較する

【デザイン/セッティング/参加者】

  • 二重盲検2×2要因デザイン無作為化試験
  • 2017年11月9日〜2020年7月9日にWisconsin州のMadison、Milwaukeeにあるクリニックで施行
  • 5本/日以上喫煙している成人1251名が参加した

【介入】

  • 全ての参加者は禁煙のカウンセリングを受けた
  • 参加者は以下の4群に割り付けられた
    • バレニクリン単独ー標準治療期間(n=315)
    • ニコチンパッチ併用ー標準治療期間(n=314)
    • バレニクリン単独ー延長治療期間(n=311)
    • ニコチンパッチ併用ー延長治療期間(n=311)

【主要評価項目】

呼気一酸化炭素濃度測定により確認された52週時での7日間の禁煙

【結果】

  • 1251名の参加者の平均年齢は49.1歳[SD:11.9]、675名[54.5%]が女性だった
  • 751名[60.0%]が治療を完遂し、881名[70.4%]が最後まで追跡された
  • 主要評価項目について、治療薬と治療期間の間に有意な交互作用はなかった
    • odds ratio[OR], 1.03 [95%CI, 0.91-1.17]; P=0.66
  • 延長治療期間(24週)群と標準治療期間(12週)群で、禁煙率に有意差はなかった
    • 24.8%(154/622) vs 24.3(153/629), リスク差, -0.4% [95%CI, -5.2% to 4.3%];OR, 1.01[95%CI, 0.89-1.15]
  • ニコチンパッチ併用群とバレニクリン単独群で、禁煙率に有意差はなかった
    • 24.3%(152/625) vs 24.8(155/626), リスク差, 0.4% [95%CI, -4.3% to 5.2%];OR, 0.99[95%CI, 0.87-1.12]

考察・感想

バレニクリンとニコチンパッチの併用は、バレニクリン単独と比較して禁煙成功率を高めないという結果でした。また、治療期間を延長しても効果に変わりはないという結果でした。

本研究の背景として、バレニクリン単独とニコチン代替療法との併用の禁煙成功率を比較する3つの無作為化試験があり、これらを元にしたメタ解析は併用療法の優位性を支持するものでした。American Thoracic society(米国胸部学会)では、この結果を受けて条件付きでバレニクリンとニコチンパッチの併用療法を推奨しましたが、他のほとんどのガイドラインでは推奨していませんでした。本研究の参加者は先行の3つの研究全ての参加者の合計よりも多かったのですが、結論は先のメタ解析の結果に反するものとなりました。本文中の考察では、両研究で異なる結果になった要因については不明とされていました。

一方、ニコチン代替療法の期間を延長することで長期的な禁煙の成功率を高めるという研究もありましたが、バレニクリンの治療期間延長について検討した研究はほとんどありませんでした。本研究ではバレニクリン単独、あるいはニコチンパッチとの併用において、治療期間の延長についても禁煙率を高めるという結果は得られませんでした。

この研究の禁煙成功率は52週時点で約1/4程度で、他の禁煙治療研究と同等か少し低いくらいでした。自力で禁煙するよりは高い成功率ですが、やや頼りない数字とも感じます。型通りに薬を処方するだけで克服できるほどニコチン依存症は簡単なものではないということでしょう。

Next Step

私も一時期、禁煙外来を担当していましたが、禁煙は患者さんの健康だけでなく、精神面、経済面にも良い影響があり、総合診療医としてやりがいを感じられる仕事の一つだと思います。禁煙成功率を高める方法については、薬物療法以外にも様々な検討が行われており、それらも含め今後も積極的に情報収集を続けたいと思います。

参考文献

この号の中に『ー家庭医療における「禁煙指導」ーSMOKING CESSATION GUIDANCE』という記事があります。特に印象的だったのは、喫煙者が禁煙に踏み切れない理由の一つが「一生我慢し続けなければならないのではないかという予期不安」という話でした。他にも喫煙者の心理に触れられる記述があり、never smokerの医療者が禁煙治療を行う際のヒントが詰まっていると思いました。

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