PHQ-9によるうつ病スクリーニングの精度は?

PHQ-9はうつ病のスクリーニングとして使用さています。
今回はPHQ-9によるうつ病の診断精度を検証した研究を取り上げます。

Accuracy of the Patient Health Questionnaire-9 for screening to detect major depression: updated systematic review and individual participant data meta-analysis.Negeri ZF, Levis B, Sun Y, et al. ; Depression Screening Data (DEPRESSD) PHQ Group.BMJ. 2021 Oct 5;375:n2183. doi: 10.1136/bmj.n2183.PMID: 34610915

論文の概要

【目的】

 うつ病のスクリーニングツールであるPatient Health Questionnaire-9(PHQ-9)のうつ病診断精度を検証する

【デザイン】

 システマティックレビュー、メタ解析(individual participant data meta-analysis)

【方法】

  • 適格研究は、PHQ-9を実施し、半構造化診断面接・完全構造化面接・Mini International Neurosydhiatric Interview(MINI;簡易面接法)のいずれかを参照基準としてうつ病を分類した研究とした
  • 二変量ランダム効果メタ解析モデルを用いて、半構造化診断面接・構造化面接・MINIを用いた研究との間で、カットオフ値5-15におけるPHQ-9の感度・特異度の点推定・区間推定をそれぞれ算出した
  • メタ回帰を用いてPHQ-9の精度が参照基準や参加者の特性と関連しているかを検証した

【結果】

  • 127件の適格研究のうち100件から44,503例のデータが得られた
  • 半構造化面接を参照基準とした研究では、PHQ-9の感度・特異度が最大になるカットオフ値は≧10で、その感度は0.85(95%CI:0.79~0.89)、特異度は0.85(95%CI:0.82~0.87)だった
  • PHQ-9の特異度は、参照基準間で同様だった
  • PHQ-9の感度は、半構造化面接を参照基準とした時、参照基準を完全構造化面接とした時よりも7-24%高く、MINIとした時よりも2-14%高かった
  • 特異度は男性で0-10%(中央値3%)、60歳以上で0-12%(中央値5%)高かった

<補足>

PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)

質問紙によるうつ病のスクリーニングツール。DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)のうつ病診断基準にある9つの症状の過去2週間における頻度を数値化(各項目0~3点)するもの。プライマリ・ケアの現場で使用されることを念頭に作られた尺度であり、短時間・簡便に実施可能。

考察・感想

PHQ-9はうつ病の診断において、カットオフ値を10とした場合に感度・特異度が最大となり、その時の感度は85%、特異度は85%ということでした。

この研究ではカットオフ値をどのように設定するかについて考察されていました。以下の2つはPHQ-9に限らず、あらゆるスクリーニングツールにおいて重要なポイントだと思いました。

  • 患者背景や地域の医療資源等の要因により最適なカットオフ値は変わってくる
  • 感度・特異度が最大となるカットオフ値が、臨床現場で最も有用なカットオフ値とは限らない

この点について検討するためのツールが著者らのグループにより提供されています。→www.depressionscreening100.com/phq

このサイトでは、有病率(事前確率)とカットオフ値を入力すると、スクリーニングの陽性率/陰性率、陽性的中率/陰性的中率が表示されます。

例えば、うつ病の有病率を5%と想定した時、PHQ-9のカットオフ値を10と設定すると、以下のような結果が出ます。

100人がスクリーニングを受けた場合、18人が陽性になります。陽性となった18人中、本当にうつ病なのは4人だけです。つまり、陽性的中率は23%となります。

一方、100人中82人は陰性となります。陰性となった82人中、本当はうつ病なのにこのスクリーニングで陰性となるのは1人だけです。つまり陰性的中率は99%となります。

ちなみに有病率を10%、カットオフ値を15に上げても、陽性的中率は59%でした。

USPSTF(United States Prevention Services Task Force;米国予防医学作業部会)は12歳以上の全ての青年および成人へのうつ病のスクリーニングを推奨しています。このように対象を広くとる場合はうつ病の事前確率が低いので、PHQ-9が陽性となっただけではその人がうつ病である可能性は高くないということになります。陽性になった人には、追加でより詳細な問診を行うのが望ましいと思います。

上記のサイト(www.depressionscreening100.com/phq)では、使用するセッティングに応じて事前確率やカットオフ値を自由に設定して感度・特異度を算出できるので、より柔軟なPHQ-9の運用が可能です。スクリーニングツールの解釈の仕方について学ぶ上でも有用だと思うので、一度試してみてはいかがでしょうか。

精神科や心療内科の医療資源の乏しい地域では、プライマリ・ケア医がうつ病を診断し処方を行うこともあります。PHQ-9をスクリーニングとして用いる際は、その特性を十分に理解して活用したいですね。

Next Step

うつ病はプライマリ・ケアの現場でも比較的よく扱うCommon diseaseです。今回は診断に関連する話題でしたが、近年は治療薬の進歩も目覚ましく、十分について行けていないと感じています。今後、機会があれば治療に関する研究についても取り上げていきたいと思います。

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