認知症高齢者の焦燥性興奮に対するミルタザピンの効果は?

認知症患者の不穏、興奮、易怒性はしばしば対応に苦慮します。そのような事例に最近使用されることが増えている抗うつ薬ですが、その効果と安全性はどうなのでしょうか。

Study of mirtazapine for agitated behaviours in dementia (SYMBAD): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial.Banerjee S, High J, Stirling S, et al.Lancet. 2021 Oct 23;398(10310):1487-1497. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01210-1.PMID: 34688369

論文の概要

【背景】

  • 焦燥性興奮は認知症高齢者に多くみられ、患者と家族のQOLに悪影響を及ぼす
  • 非薬物療法が第一選択ではあるが、効果がない場合は他の治療が必要である
  • 現行のガイドラインでは抗精神病薬に代わる安全で効果的な治療が乏しい
  • 本研究ではミルタザピンの焦燥性興奮に対する安全性と有効性を検討する


【方法】

  • 二重盲検ランダム化プラセボ対照比較試験
  • イギリスの26の施設で実施
  • 対象はアルツハイマー病(疑い)と診断された患者
  • 非薬物療法が無効な焦燥性興奮で、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)スコアが45点以上
  • ミルタザピン群とプラセボ群に1:1にランダムに割り付け
  • 主要評価項目は12週間後のCMAIスコア


【結果】

  • 2017年1 月26日〜2020年3月6日に204例を組み入れ、ランダム割り付けした
  • ミルタザピン群とプラセボ群で12週間後のCMAIスコアの平均に有意差はなかった
    • 補正後平均群間差 -1.74, 95%CI: -7.17~3.69; p=0.53
  • ミルタザピン群とプラセボ群で有害事象の数に有意差はなかった
  • ミルタザピン群は、プラセボ群よりも16週までの死亡が多かった
    • ミルタザピン群6例、プラセボ群1例、事後解析の統計学的有意性はmarginal(p=0.065)

<補足>

Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)

  • 認知症の周辺症状のうち、攻撃的行動を評価する指標
  • 29項目のagitated behaviorの出現頻度を7段階で評価する

考察・感想

認知症に伴う焦燥性興奮に対して、ミルタザピンはプラセボと比較して有意な臨床的効果を示せませんでした。一方で、ミルタザピンはプラセボよりも死亡が多い可能性が示唆されました。両群間の死亡の差は統計学的に明らかに有意なものではありませんでしたが、それを正当化するほどの臨床的効果がない以上、やはり認知症に対するミルタザピンの使用は勧められないと判断すべきでしょう。

この研究の背景として、近年認知症の焦燥性興奮に対して抗うつ薬が多く使用されているということがあります。中でもnoradrenergic and specific serotonergic antidepressant(NaSSA)に分類されるミルタザピンは、欧米で最もよく認知症患者に処方されているとのことです。

認知症の焦燥性興奮に対しては、リスペリドンなどの抗精神病薬や、バルプロ酸、ベンゾジアゼピンも使用されることがありましたが、いずれも効果が示されないか、副作用が強いという欠点がありました。一部の先行研究でミルタザピンが認知症患者の周辺症状を改善する可能性を示唆するものがあり、比較的副作用が少ないと考えられていることもあって、処方が増えていたものと思われます。

本研究により、ミルタザピンをはじめとする鎮静作用を持つ抗うつ薬の認知症への使用を見直す必要性が示唆されました。結局、認知症の焦燥性興奮に対しては、現状あまりいい薬剤はないということでしょうか。とはいえ、やはり現実には使用せざるを得ない場面も多いので、副作用のリスクを十分に承知の上で処方する必要がありそうです。

Next Step

認知症の周辺症状については、病棟スタッフや介護者から非常によく相談される問題です。医師はつい処方に頼りがちですが、そもそも第一選択は非薬物療法であるということを忘れてはいけません。本文中にも例示されていましたが、非薬物療法について全く知識がないことがわかったので、今後の課題としたいと思います。

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