炎症性腸疾患は以前から食事との関連が指摘されており、一部の地域で炎症性腸疾患が増加しているのは食生活の変化が原因と一つと考えられています。今回は超加工食品(ultra-processed food)と炎症性腸疾患との関連について検討した研究を取り上げます。
Association of ultra-processed food intake with risk of inflammatory bowel disease: prospective cohort study.Neeraj Narula, Emily C L Wong, Mahshid Dehghan, et al.BMJ. 2021; 374: n1554. Published online 2021 Jul 15. doi: 10.1136/bmj.n1554
論文の概要
【目的】
超加工食品の摂取と炎症性腸疾患(IBD:inflammatory bowel disease)の発症リスクを評価する
【デザイン】
前向きコホート研究
【セッティング】
世界の7地域(ヨーロッパ・北米、南米、アフリカ、中東、南アジア、東南アジア、中国)の
低、中、高所得国を含む21カ国
【対象】
ベースラインの食物摂取量調査への回答と3年ごとの前向き追跡調査を少なくとも1回完了している35-70歳の成人116,087例
【主要評価項目】
- 主要評価項目はクローン病と潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患とした
- 超加工食品と炎症性腸疾患のリスクとの関連はCox比例ハザードモデルを用いて評価した
【結果】
- 参加者は2003年〜2016年の間に研究に組み入れられた
- 追跡期間(中央値9.7年、四分位範囲:8.9~11.2)中に、467例の炎症性腸疾患(クローン病90例、潰瘍性大腸炎377例)の症があった
- 潜在的交絡因子で調整後、超加工食品の摂取量は炎症性腸疾患の発症と関連があった
- ハザード比[HR]、 95%信頼区間[CI]は、1日摂取量1サービング未満と比較して、5サービング以上でHR:1.82、CI:1.22~2.72、1-4サービングでHR:1.67、CI:1.18~2.37だった
- ソフトドリンク、精製甘味料入り食品、塩分の多いスナック菓子、加工肉などのサブグループでもそれぞれ炎症性腸疾患のハザード比が上昇していた
- 白身肉、赤身肉、乳製品、でんぷん、果物、野菜、豆類の摂取量は炎症性腸疾患の発症と関連がなかった
考察・感想
超加工食品の摂取量が多いと、炎症性腸疾患の発症リスクが高まるという結果でした。
超加工食品は、保存料、香料、着色料などの添加物が入った食品を指し、がんや心血管疾患との関連を指摘する研究もあります。
Fiolet T, et al. BMJ. 2018;360:k322
Bonaccio M, et al. Eur Heart J. 2021 Nov 30.
欧米諸国で炎症性腸疾患の罹患率が高いことに加え、食の欧米化が進んでいる国(日本も含まれる)で罹患率が上昇傾向であることから、炎症性腸疾患と食事の間に関連があると考えられてきました。
この分野は多くの先行研究がありますが、結果は必ずしも一貫していませんでした。後ろ向き研究または症例対照研究が多かったり、わずかな前向き研究もサンプル数が少なかったりといったことが限界として指摘されていました。本研究は前向き研究で、非常に多くのサンプル数を含む国際研究であり、先行研究にない強みがあります。
これまでの研究で、肉の消費量が炎症性腸疾患に関係することが示唆されていましたが、本研究では未加工の肉と炎症性腸疾患の関連は指摘されませんでした。今後は食品が「何でできているか」ではなく、「どのように加工されたか」という点がより重視されるようになるかもしれません。
超加工食品のどの成分が炎症性腸疾患の発症に関わるのかなど、追求すべき点は依然多くあり、さらなる研究が待たれます。
Next Step
総合診療医にとっては、患者の食生活を聴取し、必要に応じて適切に助言することも重要な役割の一つです。「食」は生活に関わる身近な話題で、外来でも役立つことが多いので、このような栄養に関する知識は今後も積極的に取り入れていきたいと思います。
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