低酸素血症に対する酸素投与、目標とする血中酸素濃度は?

重症患者の呼吸管理において、高い酸素濃度は臓器障害を増やす可能性が指摘されています。では目標血中酸素濃度を低めに設定して管理したら、患者の臓器障害を本当に減らすことができるのでしょうか。

Effect of Low-Normal vs High-Normal Oxygenation Targets on Organ Dysfunction in Critically Ill Patients: A Randomized Clinical Trial.Gelissen H, de Grooth HJ, Smulders Y, et al.JAMA. 2021 Sep 14;326(10):940-948. doi: 10.1001/jama.2021.13011.PMID: 34463696

論文の概要

【背景】

 重症患者に対する高酸素血症は臓器障害を増加させるとされるが、最適な血中酸素濃度はわかっていない


【目的】

 SIRS(systemic inflammatory response syndrome)を伴う重症患者において、低い血中酸素濃度を目標とすると、高い血中酸素濃度を目標とするよりも臓器障害を減少させられるかを検証する


【デザイン、セッティング、対象】

  • オランダの4か所の集中治療室で行なわれた多施設共同ランダム化試験
  • SIRS基準の2項目以上に該当し、48時間以上集中治療を行うことが予想される患者を、2015年2月〜2018年10月に組み入れ2019年1月まで追跡した
  • 9925例の患者についてスクリーニングを行い、574例が適格と判断された


【介入】

  • 目標PaO2: 60-90mmHg(低目標, n=205)、105-135mmHg(高目標, n=195)
  • 吸入酸素濃度(FiO2)0.6以上は臨床的適応がある時にのみ行う


【評価項目】

  • 主要評価項目はSOFARNK(SOFA scoreの呼吸器以外の項目で評価)の14日間の合計
  • 副次評価項目は人工呼吸の期間、院内死亡、低酸素血症


【結果】

  • 574 例中、400例(70%)が24時間以内に組み入れられ、その全員が試験を完遂した
  • 年齢中央値: 68歳、女性140例(35%)
  • 両群間のPaO2の差は-14.5mmHg(95%CI: -15.9~-13.1; P<0.001)
  • 低い酸素濃度目標と高い酸素濃度目標の間で、臓器障害(SOFARANK)に有意差はなかった
    • SOFARANK中央値は、低目標群で-35、高目標群で-40(median difference:10[95%CI: 0~21]; P=0.06)
  • 低い酸素濃度目標と高い酸素濃度目標の間で、人工呼吸の期間、院内死亡に有意差はなかった
    • 人工呼吸の期間(3.4日 vs 3.1日; median difference:-0.15[95%CI: -0.88~0.47]; P=0.59)
    • 院内死亡(32% vs 31%; OR: 1.04[95%CI: 0.67~1.63]; P=0.91)
  • 中等度の低酸素血症は低目標群で頻度が高かった(1.9% vs 1.2%; median difference:0.73[95%CI:0.30~1.20]; P<0.001)
  • 急性腎障害は低目標群で20例(10%)、高目標群で21例(11%)発生した
  • 急性心筋梗塞は低目標群で6例(2.9%)、高目標群で7例(3.6%)発生した

考察・感想

血中酸素濃度を低めに管理しても、臓器障害を減らさないという結果でした。

この研究の背景として、高酸素血症が重症患者の臓器障害を促進するのではという議論がありました。高酸素血症の害として、①肺障害、②虚血再灌流障害、③全身性血管収縮が挙げられます。高濃度酸素投与を行った患者で有意に予後が悪かったという研究も複数存在します。一方、高酸素血症の利点として、血管拡張を伴う全身性炎症性疾患では、血管収縮作用が臓器の血流を改善させること、抗菌作用が期待されることなどが挙げられます。低い酸素濃度目標でもアウトカムに差がないとする研究や、低酸素により有害事象が有意に増加するという研究もあり、どの程度の酸素濃度を目標とすべきかという問いに決着はついていません。

本研究では、目標酸素濃度の高低による臨床的なアウトカムの違いは示されませんでした。高酸素血症に伴う有害事象は仮説よりも小さいか、より極端な高酸素血症でのみ生じるものかもしれないという考察がされていました。

本研究は全身性炎症性疾患の患者が対象となっており、比較的高酸素の恩恵を受けやすい集団だったと言えるかもしれません。疾患や病態によっては、低い酸素濃度による管理の恩恵を得られる患者もいるかもしれませんが、今後の研究が待たれます。

Next Step

人工呼吸管理を行う際、注目すべき指標、設定すべき項目が多くありますが、それぞれの臨床的な意義について十分理解できていない部分も多いと感じました。人工呼吸に関する他の研究にも触れ、上手に呼吸管理を行えるように勉強を続けたいと思います。

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