低体温療法は院外心肺停止患者の予後を改善するか?

心肺蘇生後の昏睡患者に対して、低体温療法が推奨されてきました。今回取り上げるのは、院外心肺停止後の昏睡患者に対する体温管理療法(TTM:Targeted Temperature Management)の有効性について検討した論文です。

Hypothermia versus Normothermia after Out-of-Hospital Cardiac Arrest.Dankiewicz J, Cronberg T, Lilja G, et al.; TTM2 Trial Investigators.N Engl J Med. 2021 Jun 17;384(24):2283-2294. doi: 10.1056/NEJMoa2100591.PMID: 34133859

論文の概要

【背景】  

 体温管理療法(TTM:Targeted Temperature Management)は心肺停後の患者に推奨されているが、そのエビデンスの確実性は低い

【方法】

  • 院外心肺停止後昏睡の成人(≧18歳)患者1900人を低体温療法群と常温療法群に無作為に割り付けた
    • 低体温療法群は体温33℃を目標に管理
    • 常温療法群は体温37.5℃以下を目標に管理、37.8℃になったら速やかに冷却
  • 事前に以下をサブグループとして規定した
    • 性別、年齢、初期波形、自己心拍再開までの時間、入院時のショックの有無
  • 主要アウトカムは6ヶ月時点の全死因死亡
  • 副次アウトカムは6ヶ月時点の機能的アウトカム(modified Rankin scaleで評価)

【結果】

  • 1850人が主要アウトカムを評価された
  • 6ヶ月時点で、低体温療法群と常温療法群の全死因死亡に差はなかった
    • 低体温療法群では465/925例(50%)が死亡、常温療法群では446/925例(48%)が死亡
    • 低体温療法の全死因死亡の相対リスク[RR]:1.04;95%信頼区間[CI]:0.94~1.14
  • 6ヶ月時点で、低体温療法群と常温療法群の機能的アウトカムに差はなかった
    • 低体温療法群では488/881例(55%)、常温療法群では479/866例(55%)がmodified Rankin scale 4点以上
    • 低体温療法の中等度以上機能障害の相対リスク[RR]:1.00;95%信頼区間[CI]:0.92~1.09
  • 事前に規定したサブグループ解析でも結果は一貫していた
  • 循環動態の悪化をきたす不整脈の頻度は、低体温療法群で有意に高かった(24% vs 17%,P<0.001)
  • その他の有害事象に有意差はなかった

考察・感想

院外心肺停止蘇生後の昏睡患者に対する低体温を目標とした体温管理療法は、生命予後も機能予後も改善しないという結果でした。

低体温療法は2002年にその有効性を示すRCTが2件立て続けに出されたのが始まりです。その後、ACLSのプロトコールで推奨され、日本でも2006年以降保険適応となっていました。今回は先行研究よりも圧倒的にサンプルサイズが大きく、内的妥当性も高いと思われます。当時とくらべて体温管理の技術も進歩していますし、心肺停止から低体温療法開始までの時間も先行研究より短く、従来より低体温療法の効果を得られやすい条件が整っていました。その中で得られたデータなので、これまでのエビデンスを覆すインパクトのある結果であると言えるでしょう。

低体温療法の有効性を示した2002年の2件のRCTでは対照群に目標体温が設定されていなかったのに対し、本研究の対照群では常温を目標とした体温管理を行われていたので、体温管理療法(TTM)の効果を否定する結果ではないことには注意が必要です。

Next Step

心肺蘇生法については全ての医療者が習熟すべき基本的ですが、このように長年の常識が覆ることもあるので、定期的にACLSアルゴリズムについてもアップデートしていきたいと思います。

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