心肺停止患者の蘇生では、除細動適応のリズムであればすぐに除細動を行うのが基本です。本研究では、除細動適応リズムに対し、除細動より先にアドレナリンを投与された患者の転帰について検討しています。
Epinephrine before defibrillation in patients with shockable in-hospital cardiac arrest: propensity matched analysis.Evans E, Swanson MB, Mohr N, et al. ; American Heart Association’s Get With The Guidelines-Resuscitation investigators.BMJ. 2021 Nov 10;375:e066534. doi: 10.1136/bmj-2021-066534.PMID: 34759038
論文の概要
【目的】
除細動適応リズムの院内心肺停止への除細動前のアドレナリン投与の予後を検討する
【デザイン】
傾向スコアマッチ法 Propensity matched analysis
【セッティング】
497病院が参加するGet With The Guidelines-Resuscitation registryよりデータを抽出
【対象】
18歳以上の除細動適応(VF or pulseless VT)の院内心肺停止患者
【介入】
1回目の除細動前にアドレナリンを投与
【結果】
- 34820例の除細動適応リズムの患者のうち、9630例(27.6%)がガイドラインに反して除細動前にアドレナリンを投与された
- 除細動先行群に対し、アドレナリン先行群では心筋梗塞や心不全が少なく、腎不全、敗血症、肺炎、心肺停止前に人工呼吸管理を行われていた例が多かった
- アドレナリン先行群で、初回除細動までの時間に有意な遅れがあった(3分 vs 0分)
- アドレナリン先行群は除細動先行群と比べて生命予後・機能予後が有意に悪化した
- 生存退院(25.2% vs 29.9%, OR:0.81, 95%CI:0.74~0.88; p<0.001)
- 神経学的に良好な生存(18.6% vs 21.4%, OR:0.85, 95%CI:0.76~0.92; p<0.001)
- 蘇生成功(64.4% vs 69.4, OR:0.76, 95%CI:0.70~0.83; p<0.001)
<補足>
心肺蘇生のガイドラインでは、心静止(Asystole)、無脈性電気活動(PEA:pulseless electrical activity)の場合は早急なアドレナリン投与が推奨される一方、心室細動(VF:ventricular fibrillation)、無脈性心室頻拍(pulseless VT:ventricular tachycardia)の場合は、迅速な除細動が推奨されている。この場合、アドレナリンは除細動を2回(ヨーロッパのガイドラインでは3回)行う後まで投与しないように推奨されている。
考察・感想
除細動適応リズムの心肺停止に除細動よりも先にアドレナリンを投与した場合、ガイドラインの推奨通りすぐに除細動を行った場合よりも有意に患者の転帰が悪かったという結果でした。
同じグループの先行研究で、1回目の除細動が無効だった心肺停止患者のうち、51%が2回目除細動を行う前にアドレナリンを投与されており、ガイドラインの推奨通り2回目除細動後にアドレナリンを投与された群よりも有意に転帰が悪かったという報告がありました。
Andersen LW.BMJ. 2016 Apr 6;353:i1577.
本研究では除細動適応患者のうち27.6%もの症例で1回目の除細動前にアドレナリンが投与されていました。前の研究と合わせると除細動適応の心肺停止患者の6割以上で蘇生のガイドラインが遵守されていないことになります。アメリカでもこの数字なので、日本でも決してその割合は低くないと思われます。
アドレナリン投与により、VF、VTに対して最も有効な治療である除細動が遅れることが、予後悪化の大きな要因の一つと考えられますが、除細動までの時間で調整した後も生命予後不良の傾向は認められたとのことでした。
除細動適応の症例で除細動前にアドレナリンが投与されてしまう原因として、以下のような考察がされていました。
院内心肺停止の85%以上が除細動適応外リズム(Asystole or PEA)であり、そのような症例では迅速なアドレナリン投与が強調されています。その意識が除細動適応の心肺停止にも波及し、推奨よりも早い段階でのアドレナリン投与を招いているということです。
改めて蘇生ガイドライン遵守の重要性を説く論文でした。
Next Step
院内心肺停止のような緊急の場面で、冷静に適切な治療を選択するのは思っている以上に難しいことだと思います。
BLSやACLSはこのような場面で体が自然に動くように繰り返しシミュレーションするものです。働く環境によって心肺蘇生が必要な場面に遭遇する頻度は大きく変わりますが、医療者の基本的な技術として、やはり定期的に受講するのが望ましいと感じました。
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