在宅医療と入院治療、患者の転帰に差は?

本来入院して受けるような治療を自宅で受ける。それで患者の転帰に差はないのか。在宅医療の体制が日本と大きく異なるイギリスでの研究ですが、非常に興味深いテーマです。

Is Comprehensive Geriatric Assessment Admission Avoidance Hospital at Home an Alternative to Hospital Admission for Older Persons? : A Randomized Trial.Shepperd S, Butler C, Cradduck-Bamford A, et al. J.Ann Intern Med. 2021 Jul;174(7):889-898. doi: 10.7326/M20-5688. Epub 2021 Apr 20.PMID: 33872045 

論文の概要

【背景】

 在宅医療は、増大する入院の需要に対応する一つの方策であるが、臨床的な効果は不確かである


【目的】

 在宅医療の臨床的な効果を評価する


【デザイン】

 多施設共同ランダム化試験


【セッティング/対象】

  • イギリスの9の病院と診療所
  • 入院適応のある1055例の高齢者


【介入/評価】

  • 在宅医療群(hospital at home)と入院治療群に2:1にランダムに割り付け、高齢者総合機能評価を行う
  • 主要評価項目:6ヶ月後に自宅で生活しているか
  • 副次評価項目:長期介護施設入所、死亡、健康状態、せん妄、患者満足度


【結果】

  • 患者の平均年齢は83.3歳(SD 7.0)だった
  • 在宅医療と入院治療で6ヶ月後フォロー時、自宅で生活していた患者の割合に有意差はなかった
    • 在宅医療群:528/672例(78.6%)、入院治療群:247/328例(75.3%)
    • RR: 1.05, 95%信頼区間[CI]: 0.95~1.15,P=0.36
  • 在宅医療と入院治療で死亡に有意差はなかった
    • 在宅医療群:114/673例(16.9%)、入院治療群:58/328例(17.7%)
    • RR: 0.98, 95%CI:0.65~1.47, P=0.92
  • 在宅医療の方が入院治療よりも長期介護施設入所が有意に少なかった
    • 在宅医療群:37/646例(5.7%)、入院治療群:27/311例(8.7%)
    • (RR: 0.58, 95%CI: 0.45~0.76,P<0.001)

<補足>

  • ここでいう在宅医療は、イギリスのAdmission avoidance hospital at homeを指す。日本でイメージする慢性疾患に対する訪問診療とは異なり、急性期疾患に対して入院と同等の治療を自宅で行うことを目的とする。
    • Nurse practitioner(ナースプラクティショナー:診療看護師)や理学療法士、作業療法士などを含む多職種チームで診療にあたる
    • Nurse practitionerは臨床的な評価や薬剤の処方の権限を有する
    • 回診(Virtual rounds)が最低でも1日1回行われる
    • 検査や入院を要する場合は急性期病院に直接、迅速に搬送する体制が整っている
    • 主な治療は点滴や酸素投与
  • 急性冠症候群、脳卒中、緊急の外科的治療を要する疾患は対象から除外されている
  • 本研究の対象者の主な疾患は、感染症(44.4%)、循環器疾患(12.5%)、呼吸器疾患(7.3%)
  • 治療期間の平均は、在宅医療群6.89日(SD 5.46)、入院治療群5.25日(SD 8.00)

考察・感想

入院レベルの治療を在宅で行った群は、入院治療群と臨床的なアウトカムに差はないという結果でした。セッティングが大きく異なるので、この結果をそのまま当てはめることはできませんが、日本での在宅医療の可能性を考える上で示唆に富む研究だったように思います。臨床的なアウトカムに差がなく、患者・家族の満足度や医療経済上のメリットが明らかであれば、より積極的に在宅医療を推進する根拠になると思います。

認知機能低下やADL低下の抑制も、入院と比較して在宅医療に期待されるところだと思いますが、本研究では両群に有意差はありませんでした。日本ではイギリスよりも入院における在院日数が圧倒的に長い傾向にあるため、認知機能やADLの面でのアウトカムの差はより大きくなるのではと考えます。

本文では触れられていませんでしたが、Supplementary filesに質問紙による患者満足度の調査があります。対応の早さ、十分な情報提供、治療内容の理解、相談のしやすさ、治療終了後のケアなど多くの点で、在宅医療群の方が高い満足を得ていました。

在宅医療を担う人材の確保、在宅医療を支える制度設計、在宅-入院を円滑につなぐ病診連携の在り方、医療者や患者・家族の意識など、日本の在宅医療における様々な課題が見えてくる論文でした。

Next Step

在宅医療は総合診療医の本領を発揮する重要なフィールドです。いかに在宅医療の質を高めるかということを考える時、医学的な観点のみでなく、患者の社会的背景や地域の医療資源、制度への理解が重要であることに気付かされます。私自身も、家に帰りたいけど様々な事情で退院できない入院患者を多く抱えていますが、そういったニーズに少しでも応えられるように、総合診療医としてもっと力をつけていきたいです。

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