小児の下気道感染に対する抗菌薬投与に症状改善効果はあるか?

安易な抗菌薬投与による耐性菌の増加が問題になる中、小児の下気道感染に対しては抗菌薬が使用されるケースが多いです。今回取り上げるのは、小児の下気道感染に抗菌薬を処方することの是非を検討した研究です。

Antibiotics for lower respiratory tract infection in children presenting in primary care in England (ARTIC PC): a double-blind, randomised, placebo-controlled trial.Little P, Francis NA, Stuart B, et al.Lancet. 2021 Oct 16;398(10309):1417-1426. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01431-8. Epub 2021 Sep 22.PMID: 34562391

論文の概要

【背景】

  • 抗菌薬耐性は世界的な公衆衛生上の脅威である
  • 抗菌薬は小児の単純な下気道感染に非常に多く処方されるが、ランダム化比較試験によるエビデンスはほとんどない
  • ARTIC PC試験で、アモキシシリンが小児の下気道感染に伴う症状を軽減するかを評価した

【方法】

  • ARTIC PC試験は、イギリスの56の一般医療機関で行なわれた二重盲検ランダム化プラセボ対照試験である
  • 感染性の単純な急性下気道感染でプライマリ・ケア医を受診した6ヶ月から12歳の小児を適格とした
  • 下気道感染は臨床的に肺炎が否定的で、21日以上症状が継続するものとした
  • アモキシシリン50mg/kg/day投与群と、プラセボ投与群に1:1にランダムに割り付けた
  • 保護者が症状の重さを0~6点でスコアリングして28日間毎日記録した

【評価項目】

 中等度以上の症状が続いた期間

【結果】

  • 2016年11月9日から2020年3月17日までに、432例の小児が適格とされた
  • アモキシシリン群(n=221)、プラセボ群(n=211)にランダムに割り付けられた
  • 症状継続期間の完全なデータは317例(73%)から得られた
  • 中等度以上の症状が続いた期間の中央値はアモキシシリン群とプラセボ群の間で差がなかった
    • アモキシシリン群:5日間[IQR 4-11] vs プラセボ群:6日間[IQR 4-15]
    • HR 1.13[95%CI: 0.90-1.42]
  • あらかじめ指定された5つのサブグループの間で主要評価項目に差はなかった

考察・感想

プライマリ・ケア医を受診する小児の急性下気道感染に対する抗菌薬使用は有症期間や重症度に臨床的に有意な改善をもたらさないという結果でした。

抗菌薬はプライマリ・ケア医によって多く処方され、抗菌薬の処方の多い地域で耐性菌の割合が高いことが既に指摘されています1)。一方、イギリスで行われた観察研究では40%の小児が気道感染に抗菌薬を処方されているそうです2)。成人の下気道感染に対する抗菌薬使用にあまり有用性がないことは先行研究で明らかにされていますが、解剖学的・免疫学的に異なる小児にそのまま成人の研究結果を当てはめることはできません。しかし、これまで小児を対象としたランダム化比較試験はほとんどありませんでした。

本研究は、成人と同様、小児に対しても下気道感染への抗菌薬投与は推奨されないことを示すものでした。比較的重症な患者に対象を絞れば、抗菌薬投与を使用する意義があるという可能性も考えられます。この研究では、呼吸困難感や異常な聴診所見の有無などで分類したサブグループでも比較が行われましたが、やはり抗菌薬の効果は示されませんでした。

小児を診療する際、重症化への不安や心配する親への配慮から、やや過剰な治療を行いがちになる気持ちは理解できます。しかし、医学的根拠を持って不要な治療を行わないという判断ができること、そして、再診の基準の説明(いわゆるsafety-netting advice)を丁寧にできることが、あるべきプライマリ・ケア医の姿だとこの論文から学びました。

1) Goossens H, et al. Lancet 2005; 365: 579–87.

2)Redmond NM,et al. Br J Gen Pract 2018; 68: e682-93

Next Step

薬剤耐性は大きなトピックであり、様々な領域で適正な抗菌薬使用についての研究の報告がされています。プライマリ・ケア医が耐性菌の増加を防ぐために重要な役割を担うことは、この論文でも示唆されていました。感染症への適切な対応は、総合診療医として磨くべき専門性の一つと考えているので、引き続きこの領域の情報収集は積極的にやっていきたいと思います。

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