転倒・骨折は、高齢者の予後とQOLを悪化させる大きな問題です。カルシウムやタンパク質が骨にいいイメージはありますが、その摂取量を増やしたら本当に骨折を予防できるのでしょうか。
Effect of dietary sources of calcium and protein on hip fractures and falls in older adults in residential care: cluster randomised controlled trial.Iuliano S, Poon S, Robbins J, et al.BMJ. 2021 Oct 20;375:n2364. doi: 10.1136/bmj.n2364.PMID: 34670754
論文の概要
【目的】
介護施設入所中の高齢者に対する栄養学的介入の骨折予防効果を評価する
【デザイン】
クラスターランダム化比較試験
【セッティング】
オーストラリアの60の高齢者施設
【対象】
施設入所者7195例:女性4920例(68%)、平均年齢86.0歳(SD 8.2)
【介入】
- 介入群と対照群にそれぞれ30施設が割り付けられた
- 介入群はカルシウム 526(SD 166) mg/day、タンパク質 12(6) g/dayを含む牛乳、ヨーグルト、チーズを追加で提供され、合計摂取量でカルシウム 1142(353) mg/day、タンパク質 69 (15) g/day(1.1 g/kg体重)を達成した
- 対照群は通常の食事を提供され、カルシウム 700(247) mg/day、タンパク質 58(14) g/day(0.9 g/kg体重)を摂取した
【主要評価項目】
骨折、転倒、全死亡の群間差
【結果】
- 介入群27施設、対照群29施設が解析された
- 2年間で、骨折324件(うち大腿骨近位部骨折135件)、転倒4302件、死亡1974件が観察された
- 対照群と比較して、介入群では骨折、転倒のリスクが有意に低下した
- 骨折リスクは33%低下した(121 vs 203 ; HR 0.67, 95%CI : 0.48-0.93; P=0.02)
- 大腿骨近位部骨折リスクは46%低下した(42 vs 93 ; HR 0.54, 95%CI : 0.35-0.83; P=0.005)
- 転倒リスクは11%低下した(1879 vs 2423 ; HR 0.89, 95%CI : 0.78-0.98; P-0.04)
- 全死亡には両群に差はなかった(900 vs 1074 ; HR 1.01, 95%CI : 0.43-3.08)
考察・感想
高齢者の乳製品の摂取量を増やすことにより、カルシウムとタンパク質の摂取量が増え、骨折や転倒のリスクを低下させることができたという結果でした。
令和元年国民生活基礎調査によると、「骨折・転倒」は「認知症」、「脳血管疾患」、「高齢による衰弱」に次いで要介護の原因の4位(12.5%)となっています。脊椎圧迫骨折や大腿骨近位部骨折は高齢者に頻度の高い骨折ですが、生命予後とQOLを著しく低下させ、医療・介護に関わる社会的な負担も大きいです。
本研究では、介入により乳製品の消費は2.0サービングから3.5サービングに増加しました。これは牛乳250mLにチーズ20gまたはヨーグルト100gを加えたものに相当します。これによりカルシウム摂取量、タンパク質摂取量が有意に増加しました。高齢者でタンパク異化を抑制し、筋肉量を維持するためには1-1.5g.kg/day以上のタンパク質摂取が必要とされています。対照群が0.9g/kg/dayであったのに対し、介入群では1.1g/kg/dayを達成していました。総カロリーには差がありませんでしたが、対照群で体重が減少したのに対し、介入群の方は体重が増加しています(2.5 [0.6 to4.1])。また、介入群では骨吸収マーカー(CTX)の低下(-20.4 [-33.2 to -7.6])、インスリン様成長因子-1(Insulin-Like Growth Factor-1;IGF-1)の増加(7.9 [15.7 to 0.2])、骨密度(椎体骨)の上昇(1.8[0.1 to 3.5])を認めました。IGF-1は、骨芽細胞の増殖・分化を促進し、骨リモデリングに重要な役割を果たすとされています。
乳製品で骨折予防とは何となくオーストラリアらしい研究のように思えますが、日々の食生活に牛乳、チーズ、ヨーグルトを少し追加する程度なら日本人でもそれほど抵抗なく受け入れられるのではないでしょうか。一口に乳製品と言っていますが、比較的脂肪分が高く、カルシウム・タンパク質の含有率の低いバター、生クリーム、アイスクリームなどは除外されているのには注意が必要です。
Next Step
高齢者の骨折予防は総合診療医の重要な役割の一つだと思います。このテーマに関しては、運動療法についての研究や、骨粗鬆症患者の薬物治療についての研究についても勉強が必要だと感じています。いずれそういう研究も取り上げていこうと思います。
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