重症患者に対する輸液過負荷は予後を悪化させる可能性が指摘されています。輸液速度を緩めることで患者の予後は改善するのでしょうか?
Effect of Slower vs Faster Intravenous Fluid Bolus Rates on Mortality in Critically Ill Patients: The BaSICS Randomized Clinical Trial.Zampieri FG, Machado FR, Biondi RS, et al.JAMA. 2021 Sep 7;326(9):830-838. doi: 10.1001/jama.2021.11444.PMID: 34547081
論文の概要
【背景】
- 重症患者において、緩徐な輸液は組織の浮腫と臓器障害を減らす可能性がある
- 輸液負荷速度と死亡などの重要なアウトカムとの関連を示すデータはない
【目的】
集中治療室に入室している患者の90日時点の生存を緩徐輸液と急速輸液で比較する
【セッティング、デザイン、対象】
- 非盲検ランダム化要因試験
- ブラジルの75のICUより11,052例を組み入れた
- 対象は少なくとも一回の輸液負荷の必要性があり、以下のリスク因子の少なくとも1つを満たす
(1)65歳以上、(2)血圧低下、(3)敗血症
(4)12時間以上の人工呼吸・NPPV・NHF
(5)腎機能低下、(6)肝硬変または急性肝不全
- 2017年5月29日~2020年3月2日に無作為割り付けた
- 2020年10月29日に追跡終了
- 対象は輸液速度と輸液製剤でそれぞれ2群に無作為割り付けた
【介入】
- 5538例が緩徐輸液群(333mL/h)、5514例が急速輸液群(999mL/h)に無作為割り付けされた
- 晶質液(Plasma-Lyte)を投与する群と生理食塩液を投与する群に無作為割り付けされた
【主要評価項目】
90日生存率
【結果】
- 無作為割り付けされた患者のうち10,520例(95.2%)が解析された
- 平均年齢61.1歳[SD: 17.0]、女性44.2%
- 初日の平均輸液量は緩徐輸液群1162mL、急速輸液群1252mLだった
- 緩徐輸液群と急速輸液群で90日生存率に有意差はなかった
- 90日までの死亡は緩徐輸液群1406/5276(26.6%)、急速輸液群1414/5244(27.0%)
- 補正ハザード比: 1.03; 95%CI: 0.96-1.11; P=0.46
- 輸液製剤と輸液速度との間に有意な関係はなかった
考察・感想
ICUで輸液負荷を要する重症患者において、緩徐輸液と急速輸液で予後の差はないという結果でした。有意差のついた副次項目もありましたが、臨床的意義は小さそうでした。
本研究の背景には、急速輸液の有害性を示す複数の報告がありました。急速輸液はガス交換に異常を来すという研究1)、運動耐容能に悪影響があるという研究2)、心拍出量を低下させ心拍数を増やす可能性があるという研究3)などです。
1)Henderson AC, et al. Respir Physiol Neurobiol. 2012;180(2-3):331-341.
2)Robertson HT, et al. J Appl Physiol (1985). 2004;97(2):697-703.
3)Ukor IF, et al. J Crit Care. 2017;41:254-259.
これまで、輸液の組成に関する研究はいくつかありましたが、輸液速度に関する研究はあまりなく、着眼点としては面白かったと思います。輸液については、患者の年齢、体格、心肺機能、栄養状態、臓器障害の程度など非常に多くの要素が絡みます。やはり輸液に画一的な正解はなく、患者の循環状態に関する様々な指標を活用して適宜慎重に調整を行っていくしかないということでしょうか。
Next Step
この論文を読みながら、輸液の量や速度について、感覚的に決めてしまいがちだったかもしれないと反省しました。輸液過剰を予防する方法として、例えばpassive leg raisingなどがありますが、このような知っていても活用できていない指標が沢山あるように思います。輸液過剰による苦い経験は私も少なからずあるので、それを予防するための臨床の様々な指標ついてもっと学ぶ必要があると感じました。
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