腰痛と変形性関節症に対する抗うつ薬の効果は?

腰痛はプライマリ・ケア医に受診する患者の主訴として非常に頻度の高いものです。近年、慢性疼痛に抗うつ薬が処方されることが増えていますが、効果は如何ほどのものでしょうか。

Efficacy and safety of antidepressants for the treatment of back pain and osteoarthritis: systematic review and meta-analysis.Ferreira GE, McLachlan AJ, Lin CC, et al. BMJ. 2021 Jan 20;372:m4825. doi: 10.1136/bmj.m4825.PMID: 33472813

論文の概要

【目的】

 腰痛と変形性関節症の疼痛に対する抗うつ薬の効果と安全性を検証する


【デザイン】

 システマティックレビュー、メタ解析


【データ】

 以下のデータベースから、2020年5月までの文献を検索した

Medline, Embase, Cochrane Central Register of Controlled Trials, CINAHL, International Pharmaceutical Abstracts, ClinicalTrials.gov, the World Health Organization International Clinical Trials Registry Platform

【データ選択の適格基準】

 腰痛、頚部痛、坐骨神経痛、股関節・膝関節の変形性関節症による疼痛を持つ患者を対象に、プラセボと抗うつ薬の効果と安全性を比較したランダム化比較試験

【データの抽出と統合】

  • 2人の研究者が独立にデータを抽出した
  • 主要評価項目は疼痛と機能障害とし、0−100点でスコア化した
  • 副次評価項目は安全性とした
  • バイアスリスクをCochrane Collaboration’s toolで評価した
  • エビデンスの質をgrading of recommendations assessment,development and evaluation(GRADE) で評価した

【結果】

  • 33試験(5318例)が解析対象となった
  • 以下、SNRI(serotonin-noradorenaline reuptake inhibitor;セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、TCA(tricyclic antidepressant;三環系抗うつ薬)
  • SNRIは3〜13週時点で腰痛を軽減した(平均差-5.03, 95%信頼区間[CI]:-7.31~-3.13, エビデンスの質: 中)
  • SNRIは3〜13週時点で変形性関節症の疼痛を軽減した(-9.72, -12.75~-6.69, エビデンスの質: 低)
  • SNRIは2週間以内で坐骨神経痛を軽減した(-18.60, -31.87~-5.33, エビデンスの質: 超低)
  • SNRIは3−13週時点では坐骨神経痛を軽減しなかった(-17.5, -42.90~-7.89, エビデンスの質: 超低)
  • TCAは2週間以内で坐骨神経痛を軽減しなかった(-7.55, -18.25~-3.15, エビデンスの質: 低〜超低)
  • TCAは3〜13週時点(-15.95, -31.52~-0.39, エビデンスの質: 低〜超低)と3〜12ヶ月時点(-27.0, -36.11~17.89,エビデンスの質: 低〜超低)で坐骨神経痛を軽減した
  • SNRIは3~13週時点で腰痛による機能障害を軽減した(-3.55, -5.22~-1.88, エビデンスの質: 中)
  • SNRIは変形性関節症による機能障害を2週間以内(-5.10, -7.31~-2.89, エビデンスの質: 中)と3〜13週(-3.55, -5.22~-1.88, エビデンスの質: 低)で軽減した
  • TCAと他の抗うつ薬は疼痛と機能障害を軽減しなかった

考察・感想

SNRI(セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)は、腰痛と変形性関節症の疼痛および機能障害を一定程度改善する可能性が示されました。有意差がついたとはいえ、100点満点で1桁程度の差しかなく、本文でもその効果は臨床的に重要といえるものではないと評価されていました。TCA(三環系抗うつ薬)は、日本ではほとんど使われなくなっていると思いますが、いずれもエビデンスレベルは低いものでした。

日本整形外科学会と日本腰痛学会の監修による『腰痛診療ガイドライン2019』では、SNRIは慢性腰痛に対する推奨度2(弱く推奨)、エビデンスの強さB(効果の推定値に中等度の確信がある)、坐骨神経痛に対する推奨度2、エビデンスの強さC(効果の推定値に対する確信は限定的である)としています。TCAは推奨度なしとなっていました。

SNRIは他の薬剤等で十分な効果が得られない時に検討する余地はありますが、その鎮痛効果にはあまり強い期待はしない方がいいかもしれません。

Next Step

外来で慢性の腰痛や関節痛を訴えられる方は非常に多く、いろいろと薬剤を試しても症状をとってあげられずに申し訳なく思うことがあります。この論文では抗うつ薬以外の薬物療法や非薬物療法には触れられていませんが、慢性疼痛のマネジメントについてもっと幅広く勉強して使える武器を増やしておきたいです。

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