近年、喘息に対する3剤併用療法(ICS,LABA,LAMA)が登場し、ガイドラインにも変更が加えられています。今回取り上げるのは中等度〜重度の喘息に対する3剤併用療法と2剤併用療法を比較した研究です。
Triple vs Dual Inhaler Therapy and Asthma Outcomes in Moderate to Severe Asthma: A Systematic Review and Meta-analysis.Kim LHY, Saleh C, Whalen-Browne A, et al.JAMA. 2021 Jun 22;325(24):2466-2479. doi: 10.1001/jama.2021.7872.PMID: 34009257
論文の概要
【背景】
中等症〜重症の喘息に対し、吸入ステロイド(ICS)と長時間作用型β2刺激薬に長時間作用型抗コリン薬(LAMA)を加えることの有益性と有害性は明らかになっていない
【目的】
長期コントロール不良の成人と小児の喘息患者における3剤併用療法(ICS,LABA,LAMA)と2剤併用療法(ICS,LABA)のアウトカムと有害事象を系統的に統合する
【方法】
- MEDLINE, Embase, CENTRAL, ICTRP, FDA, and EMA のデータベースから、2017年11月から2020年12月8日までの文献を、言語の制限なく検索した
- 2名の研究者が独立に、中等度〜重度の喘息患者に対する3剤併用療法と2剤併用療法を比較した無作為化試験を選択した
- 2名の評価者が独立にデータを抽出し、バイアスリスクを評価した
- GRADE(Grading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation) を用いてエビデンスの質を評価した
【主要評価項目】
重度増悪、喘息コントロール(ACQ-7:Asthma Control Questionnaire)、QOL(AQLQ:Asthma-related Quality of Life)、死亡、有害事象
【結果】
- 20件の無作為化試験に、11894例の小児・成人(平均年齢52歳[9~71歳];女性57.7%)が組み入れられた
- 3剤併用療法は2剤併用療法と比較して、喘息の重度増悪リスクを低下させた
- 9試験[9932例]; 22.7% vs 27.4%; RR:0.83[95%CI:0.77~0.90](エビデンスの質:高)
- 3剤併用療法は2剤併用療法と比較して、喘息コントロールを改善させた
- 14試験[11230例]; standardized mean difference[SMD]:-0.06[95%CI:-0.10~-0.02] ; ACQ-7の平均差: -0.04[95%CI:-0.07~-0.01](エビデンスの質:高)
- 3剤併用療法と2剤併用療法の間で、喘息関連QOLに有意差はなかった
- 7試験[5247例]; SMD:0.05[95%CI:-0.03~0.13]; AQLQの平均差:0.05[95%CI:-0.03~0.13](エビデンスの質:中)
- 3剤併用療法と2剤併用療法の間で、死亡に有意差はなかった
- 17試験[11595例]; 0.12% vs 0.12%; RR:0.96[95%CI:0.33~2.75] (エビデンスの質:高)
- 3剤併用療法は2剤併用療法と比較して、口渇と発声障害が多かった
- 10試験[7395例]; 3.0% vs 1.8%; RR:1.65[95%CI:1.14~2.38](エビデンスの質:高)
- 3剤併用療法と2剤併用療法の間で、治療関連の重大な有害事象に有意差はなかった(エビデンスの質:中)
考察・感想
中等度〜重度の喘息患者における3剤併用療法は、2剤併用療法よりも喘息の重度増悪リスクを低下させ、喘息コントロールを改善するという結果でした。Discussionでは、一部の評価項目で有意差はついたものの、両群間で1秒量の差はごくわずかでQOLや死亡には差がなく、臨床的な重要度は低いと辛めに評価されていました。
この結果からは、重度増悪のリスクの高い患者では3剤併用療法の良い適応になると考えられます。重度増悪の最大のリスク因子は過去1年以内の増悪の既往です。過去1年に増悪の既往のある患者とない患者の、将来の増悪リスクは25% vs 8% と大きな差があります。
Suruki RY, et al. BMC Pulm Med. 2017;17(1):74.
Next Step
日本では昨年ガイドラインが改訂されました(『喘息予防・管理ガイドライン2021』)。3剤併用療法について記載が追加されており、喘息診療における位置づけを確認しておきたいと思います。3剤併用療法のCOPDにおけるエビデンスも今後確認していきたいと思います。喘息患者の症状コントロールやQOLの改善には、患者が正しく吸入できているかを確認しながら、患者の生活背景に応じた剤形や用法の選択、吸入指導を行うことも重要です。治療の選択肢が増えてきていますが、それぞれの患者にあった喘息管理ができるよう心がけたいです。
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