アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の普及のために様々な試みが行なわれています。健康に関する行動変容のためのアプローチはACPの促進にも役立つのでしょうか。
Effect of the STAMP (Sharing and Talking About My Preferences) Intervention on Completing Multiple Advance Care Planning Activities in Ambulatory Care : A Cluster Randomized Controlled Trial.Fried TR, Paiva AL, Redding CA, Iannone L, O’Leary JR, Zenoni M, Risi MM, Mejnartowicz S, Rossi JS.Ann Intern Med. 2021 Nov;174(11):1519-1527. doi: 10.7326/M21-1007. Epub 2021 Aug 31.PMID: 34461035
論文の概要
【目的】
外来のセッティングで、コンピュータを用いた健康行動モデルに基づく介入が、成人のアドバンス・ケア・プランニングへの関わりにどのような効果をもたらすかを評価する
【デザイン】
クラスターランダム化比較試験
【セッティング】
10のプライマリ・ケア施設または特定の専門施設を患者の社会背景に応じてマッチング
【対象】
- 英語を話す55歳以上の成人
- 455名を対照群、456名を介入群に無作為割り付け
【介入】
電話またはWebによる評価に基づき、対象に応じたフィードバックとパンフレットを開始時と2ヶ月後と4ヶ月後に発送
【評価項目】
主要評価項目:6ヶ月時点での以下の4つのACPの取り組みの達成
- 人生の質・長さについての考えを信頼できる人と話し合う
- ヘルスケアについて、代理で意思決定できる人を決める
- リビングウィルを完成させる
- 診療録に記録する
副次評価項目:個人的なACPの取り組みの達成
【結果】
- 対象は64%が女性、76%が白人、平均年齢68.3 歳
- 4つのACPの取り組みを完遂した人の割合は介入群で有意に高かった
- 対照群8.2%(95%CI:4.9-11.4)、介入群14.1%(95%CI:11.0-17.2)
<補足>
アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:ACP)
「あらゆる年齢・健康段階にある成人が、自身の価値観、人生のゴール、将来受けたい医療について理解し共有することを支援するプロセス」と定義される。具体的には、人生観や受けたい医療などの重要事項を家族(愛する人)や医療者と話し合い、必要時に代理で意思決定できる人を決め、それを参照可能な形で医療記録に残すことである。
トランスセオレティカル・モデル(Transtheoretical Model:TTM)
もともとは禁煙指導の文脈でProchaskaらによって作成されたモデル。その後、食事や運動など健康に関する様々な行動に幅広く適応されている。人の健康行動が変化する過程を無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期の5つのステージに分類し、対象がどのステージにあるか把握し、それぞれのステージに応じた介入を行うことが重要であるとされる。
考察・感想
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)は、日本でも厚生労働省が「人生会議」と愛称をつけるなどして普及に努めていますが、ACPが十分に普及していないという認識はアメリカでも同様のようです。2011-2016年に行なわれた研究のシステマティックレビューでは、事前指示書を作成しているアメリカの成人は1/3にすぎないとされています。1)ある研究では65歳以上の成人の38%がACPの全ての項目を完了し、27%は一つも行っていないということです。2)
1)Yadav KN, Gabler NB, Cooney E, et al. Health Aff (Millwood). 2017;36:1244–51.
2)Harrison KL, Adrion ER, Ritchie CS, et al. JAMA Intern Med. 2016;176:1872–5.
本研究では、参加者のACPについての理解や行動に応じて個別化されたフィードバックを行うことで、ACPに関する行動を促すことができるという結果が得られました。
トランスセオレティカル・モデル(TTM)は、総合診療専門医は行動変容、予防医療、患者教育などを題材にポートフォリオを作成する際によく勉強します。TTMは初めて見聞きするという人も、「行動変容ステージ」と聞けばピンとくる人が多いかもしれません。禁煙や食事指導に用いられる行動変容アプローチが、ACPの促進にも有効であることが示唆される研究でした。
ACPが十分行なわれていると感じられるケースは実感として多くありません。どのような人に、どのようなタイミングで、どのようにアプローチするのが良いか、考え始めると色々複雑な問題が出てきます。ACPを進めるにあたり、画一的な「正解」を求めるのではなく、多様な人生観を認めて、まずは患者さん一人一人にじっくり向き合う姿勢が必要があると感じました。
Next Step
ACPは、臨床現場では事前にDNAR(心肺蘇生を行わないこと)を確認することと同義のように扱われているきらいがあると感じています。ACPがなぜ必要なのか、誰のために行うのかを見失わないように、歴史的背景や倫理的観点も踏まえて丁寧に学びんでいきたいです。
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